発達障害で障害年金(病歴・就労状況等申立書の書き方)
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病歴・就労状況等申立書は出生時から
発達障害の場合、「出生時から」現在までの具体的なエピソードを記載していくことになります。なお、この点は知的障害の場合も同様です。
病歴・就労状況等申立書の記入例(ASD)
※あくまで記入例です。下にテキスト版あり。
※上の画像と下記は同じ内容です。
簡素化した病歴・就労状況等申立書の記入例
20歳前傷病による障害基礎年金を請求する際、病歴・就労状況等申立書の記載を簡素化できる場合があります。
記入例等は、以下の関連記事をご確認ください。
病歴・就労状況等申立書のポイント
発達障害は、障害年金の認定基準によると、次の点に着目して認定が行われるとされています。
よって、発達障害の病歴・就労状況等申立書では、次の点を意識して具体的エピソードを記載していくとよいでしょう。
- いかに社会性がないか
- いかにコミュニケーション能力がないか
- いかに対人関係を築くことが困難であるか
- いかに円滑な意思疎通が困難であるか
また、医師に障害年金用の診断書を依頼する際、日頃の診察でこれらのことを伝えきれていないと思えば、具体的エピソードをメモにして手渡すなどの工夫をすると、診断書に反映されるかもしれません。
(参考)ASDの苦悩
かつてアスペルガー症候群といわれていたタイプ、つまり知的レベルが高く、言語の習得にも問題がない自閉スペクトラム症の人は、青年期や成人期になって対人関係や社会適応の壁にぶつかり、初めて相談機関や医療機関を訪ねることがあります。
そこで訴えられる苦悩は、周囲と違う自分自身の存在、就職を含む生活の困難、対人関係の挫折などに関連する切実な不安感や絶望感などです。自分が異質な人間で、周囲に避けられ、家族に迷惑をかけ、将来の見通しが立たないという絶望感は、しばしば自殺願望につながるほどのものです。
なお、その症状は、「本来の脳機能障害によるもの」と「精神的苦痛によって二次的に生じるもの」とが、お互いに悪循環をきたしたものということができます。
参考図書:『精神医学ハンドブック 医学・保健・福祉の基礎知識 第8版』山下格/著 大森哲郎/補訂 日本評論社
病歴・就労状況等申立書で参考にしたい発達障害の特性・特徴
ここでは、乳幼児期~大学生によくみられる発達障害(ASD・ADHD)の特性・特徴について記載します。
病歴・就労状況等申立書に記載する具体的エピソードが思い出せないとき、もしも下記にあてはまるようなエピソードがあれば、発達障害に特有のものと言えます。簡潔に記載しておくとよいでしょう。
参考図書・参考ウェブサイト
参考図書:『精神医学ハンドブック 医学・保健・福祉の基礎知識 第8版』山下格/著 大森哲郎/補訂 日本評論社
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🔗発達障害(神経発達症)|こころの情報サイト (ncnp.go.jp)
🔗ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
その他の留意事項
認定基準と診断書は「精神の障害」です
発達障害は、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」において「精神の障害」に分類されており、認定の際のキーワードとしては「コミュニケーション能力」「社会的な適応性」などがあげられます。また、精神の障害ですので、診断書は「精神の障害用」を使用します。
関連リンク(日本年金機構のページ)
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が適用されます
発達障害は「精神の障害」に含まれますので、精神の障害に係る等級判定ガイドラインが適用されます。このガイドラインについては別記事で解説しておりますので、そちらを参考としてください。
初診日は「初めて受診した日」です
発達障害の初診日は、原則通り「初めて受診した日」です。そのため、初診日が20歳以降であれば、当然に保険料納付要件が問われることになります。生年月日が初診日となる生まれながらの知的障害との違いに注意しましょう。障害認定基準にも下記の記述があります。
(3) 発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が 20 歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第1章第8節 精神の障害
なお、発達障害の初診日は「確定診断された日」ではなく、「その症状により初めて受診した日」であるという点にも注意が必要です。
知的障害や他の精神疾患を併発している場合
発達障害に加え、知的障害や他の精神疾患を併発している場合、それらは同一傷病なのか別傷病なのか、どちらとみなされるのでしょうか。同一傷病か別傷病かによって初診日等に影響が出てきますが、これに関しては、厚労省から以下のとおり目安が示されています。なお、あくまで目安ですので、認定の際は、発病の経過や症状から総合的に判断されます。
(1)うつ病又は統合失調症と診断されていた者に、後から発達障害が判明した場合
そのほとんどが診断名の変更であり、新たな疾病が発症したものではないことから別疾病とせず、「同一疾病」として扱う。
(2)発達障害と診断された者に、後からうつ病や神経症で精神病様態を併発した場合
うつ病や精神病様態は、発達障害が起因して発症したものとの考えが一般的であり、「同一疾病」として扱う。
(3)知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に、後から発達障害が診断されて障害等級に該当する場合
知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされているので、原則「同一疾病」として扱う。たとえば、知的障害は3級程度であった者が社会生活に適応できず、発達障害の症状が顕著になった場合などは「同一疾病」とし、事後重症扱いとする。
ただし、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者については、発達障害の程度により初めて診療を受けた日を初診とし、「別疾病」として扱う。
(4)発達障害や知的障害である者に、後から統合失調症が発症
このようなケースは極めて少ないとされていることから、原則として「別疾病」とする。
ただし、発達障害や知的障害の症状の中には稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、そのため診断書作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の傷病名に付す場合がある。このような場合、それはあくまで発達障害や知的障害の症状であるため、「同一疾病」とする。
■発達障害や知的障害と精神疾患が併発する場合の一例
前発疾病 | 後発疾病 | 判定 |
発達障害 | うつ病 | 同一疾病 |
発達障害 | 神経症で精神病様態 | 同一疾病 |
うつ病 統合失調症 | 発達障害 | 診断名の変更 (同一疾病) |
知的障害(軽度) | 発達障害 | 同一疾患 |
発達障害 | 統合失調症 | 前発疾病の病態として出現している場合は同一の疾患(確認が必要) |
発達障害 | その他精神疾患 | 別疾患 |
※あくまで一例であり、必ず上記のように判断されるというものではありません。ただし、目安として示されている以上、これと異なる主張をする場合には、それ相応の根拠を示す必要があると考えられます。
障害年金の統計情報
全国の障害年金統計(令和4年度)
精神障害・知的障害の新規裁定件数
▼障害基礎年金は、93.6%が等級該当
基礎年金 | 1級 | 2級 | 非該当 |
決定数 計64,676 | 7,205 | 53,339 | 4,132 |
構成比 | 11.1% | 82.5% | 6.4% |
▼障害厚生年金は、95.6%が等級該当
厚生年金 | 1級 | 2級 | 3級 | 手当金 | 非該当 |
決定数 計22,362 | 648 | 11,088 | 9,640 | 0 | 986 |
構成比 | 2.9% | 49.6% | 43.1% | 0% | 4.4% |
※構成比(%)は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100にならない場合があります。
※参考とした資料は、日本年金機構の「障害年金業務統計」です。
▶障害年金業務統計.pdf (nenkin.go.jp)