神経症・人格障害は原則として対象外であることに注意
「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の「第8節 精神の障害」には以下の記載があり、原則として、神経症や人格障害は障害年金の対象外とされています。
- 人格障害は、原則として認定の対象とならない。
- 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。
ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。
なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断すること。
ここに記載されている「ICD-10」とは、「国際疾病分類(ICD)第10版」のことであり、WHO(世界保健機関)が作成した疾病分類のことです。
アルファベットと数字で疾病が符号化されており、精神の疾患はF0~F9に分類されています。
そのなかで神経症はF4、人格障害はF6に分類されています。
F4 神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害
F40 恐怖症性不安障害
F41 その他の不安障害
F42 強迫性障害<強迫神経症>
F43 重度ストレスへの反応及び適応障害
F44 解離性[転換性]障害
F45 身体表現性障害
F48 その他の神経症性障害
F6 成人の人格及び行動の障害
F60 特定の人格障害
F61 混合性及びその他の人格障害
F62 持続的人格変化,脳損傷及び脳疾患によらないもの
F63 習慣及び衝動の障害
F64 性同一性障害
F65 性嗜好の障害
F66 性発達及び方向づけに関連する心理及び行動の障害
F68 その他の成人の人格及び行動の障害
F69 詳細不明の成人の人格及び行動の障害
精神の障害用の診断書の傷病名欄には、ICD-10コードを記載する箇所があります。
障害年金の請求を検討する際には、自身の傷病名がF4やF6に該当していないか、主治医に確認してみるとよいでしょう。
ただし、神経症(F4)や人格障害(F6)に分類される傷病では絶対に障害年金が支給されないかというと、そうとは限りません。
「精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う」とされていますので、まずは主治医に確認してみましょう。
なお、「精神病の病態を示しているもの」に関して、確固たる定義はありません。
就労状況や生活状況に注意
就労状況の影響
精神障害・発達障害の場合、働いていたら障害年金は受給できないのでしょうか?
決してそのようなことはありません。
そのようなことはありませんが、就労状況が等級認定に大きく影響することは事実です。
精神障害の等級認定は総合的な判断であるため、このような就労状況であればこの等級に該当する・しないと一概に言うことはできません。
それを踏まえたうえで、等級認定に影響を与える就労状況のポイントとしては、以下のようなものがあります。
- 長期間、安定して就労できているか
- 職場での上司や同僚の支援はあるか
- 仕事内容はどのようなものか
- 短時間勤務かフルタイム勤務か
- 遅刻や早退等の出勤状況はどうか
- 休職や復職を繰り返しているか
- 障害者雇用であるか否か など
一人暮らしの影響
次に、一人暮らしをしている場合、精神障害・発達障害で障害年金は受給できないのでしょうか?
こちらも、そのようなことはありません。
そのようなことはありませんが、「一人暮らしができているくらいだから症状もそれほど重いものではないのだろう」と判断されてしまう場合があるのも事実です。
ただ、症状が重くとも、家族との関係性などから一人暮らしせざるを得ないケースもあろうかと思います。
そのようなとき、事実に反して症状が軽いと判断されないためにも、日頃の受診時に普段の状況をありのままに医師に伝え、診断書に反映してもらうことが大切です。
また、一人暮らしをしているとはいえ、いわゆるゴミ屋敷状態の部屋でひきこもりがちの生活をしているような場合には、とても日常生活能力を保てていると言うことはできないと考えられます。
主治医に実情を伝えることが大切
精神の障害認定では、日常生活能力の有無が重視されます。
これは、客観的な検査数値で確認できるようなものではありません。そのため、正確な診断書を作成してもらうためには、自身の現状を医師に正しく伝えることが必要です。
日々の暮らしぶりや困っていることなどをしっかりと医師に伝えていないと、実際よりも軽い症状として診断書が作成されてしまうことになりかねません。
たとえば、診断書の「日常生活能力の判定」欄の「適切な食事」について、カップラーメンや菓子パンを食べるだけの生活は「できる」に該当しません。
ですが、実際はカップラーメンや菓子パンを食べているだけの生活にもかかわらず、医師に「食事はきちんとできていますか?」と質問されたときに「はい」と回答すると、「できる」とみなされてしまうことになるかもしれないのです。
そのようなことにならないためにも、診断書の作成を依頼する際、「日常生活能力の判定」の7項目について、具体的にどのような状況なのかを書いたメモを医師に手渡し、自身の状況を医師に伝えるのも一つの方法です。
生活状況を正確に伝え、自身の状態が正しく反映された診断書を作成してもらいましょう。
知的障害や発達障害と他の精神疾患が併発しているときの取り扱いに注意
知的障害や発達障害と他の精神疾患を併発している場合、それらは同一傷病なのか別傷病なのか、どちらとみなされるのでしょうか。
同一か別かによって初診日等に影響が出てきますが、これに関しては、厚労省から以下のとおり目安が示されています。
なお、あくまで目安ですので、認定の際は、発病の経過や症状から総合的に判断されます。
(1)うつ病又は統合失調症と診断されていた者に、後から発達障害が判明した場合
そのほとんどが診断名の変更であり、新たな疾病が発症したものではないことから別疾病とせず、「同一疾病」として扱う。
(2)発達障害と診断された者に、後からうつ病や神経症で精神病様態を併発した場合
うつ病や精神病様態は、発達障害が起因して発症したものとの考えが一般的であり、「同一疾病」として扱う。
(3)知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に、後から発達障害が診断されて障害等級に該当する場合
知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされているので、原則「同一疾病」として扱う。たとえば、知的障害は3級程度であった者が社会生活に適応できず、発達障害の症状が顕著になった場合などは「同一疾病」とし、事後重症扱いとする。
ただし、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者については、発達障害の程度により初めて診療を受けた日を初診とし、「別疾病」として扱う。
(4)知的障害と診断された者に、後からうつ病が発症した場合
知的障害が起因して発症したという考え方が一般的であることから、「同一疾病」とする。
(5)知的障害と診断された者に、後から神経症で精神病様態を併発した場合
原則として「別疾病」とする。
ただし、「統合失調症(F2)」の病態を示している場合は、統合失調症が併発した場合として取り扱う。→下記(6)を参照
また、「躁うつ病(気分(感情)障害)(F3)」の病態を示している場合は、うつ病が併発した場合として取り扱う。→上記(4)を参照
(6)発達障害や知的障害である者に、後から統合失調症が発症
このようなケースは極めて少ないとされていることから、原則として「別疾病」とする。
ただし、発達障害や知的障害の症状の中には稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、そのため診断書作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の傷病名に付す場合がある。このような場合、それはあくまで発達障害や知的障害の症状であるため、「同一疾病」とする。
■発達障害や知的障害と精神疾患が併発する場合の一例
前発疾病 | 後発疾病 | 判定 |
発達障害 | うつ病 | 同一疾病 |
発達障害 | 神経症で精神病様態 | 同一疾病 |
うつ病 統合失調症 | 発達障害 | 診断名の変更 (同一疾病) |
知的障害(軽度) | 発達障害 | 同一疾患 |
知的障害 | うつ病 | 同一疾患 |
知的障害 | 神経症で精神病様態 | 別疾患 |
知的障害 発達障害 | 統合失調症 | 前発疾病の病態として 出現している場合は 同一の疾患(確認が必要) |
知的障害 発達障害 | その他精神疾患 | 別疾患 |
※あくまで一例であり、必ず上記のように判断されるというものではありません。ただし、目安として示されている以上、これと異なる主張をする場合には、それ相応の根拠を示す必要があると考えられます。