この記事を書いた人

群馬県前橋市の障害年金専門社労士 鈴木雅人
社会保険労務士・精神保健福祉士
鈴木雅人

病歴・就労状況等申立書とは

請求者自身が、自分の病状や困っていることを自分の言葉で伝えることができる唯一の書類、それが「病歴・就労状況等申立書」です。

障害年金を請求するためには必ず提出しなければならない書類であり、自分で書いても代理人(家族や社労士など)に代筆してもらっても、どちらでも構いません

私の個人的な考えですが…

病歴・就労状況等申立書は、たしかに「請求者自身が、自分の病状や困っていることを自分の言葉で伝えることができる唯一の書類」です。

でも、だからといって、「障害年金の受給に賭ける熱い想い」を記載するものではありません。

客観的事実を淡々と書いていき、そのなかで病状や困りごとをアピールしていきます。

そして、審査する人が診断書を読み、たとえば「2級 or 不支給」で判断に迷ったとき、病歴・就労状況等申立書の内容から「2級」と判断されれば、その申立書は立派に役目を果たしたことになります。

一方、誰がどう読んでも「2級」と判断される診断書であれば、病歴・就労状況等申立書は必要最低限のことだけを箇条書きにでもしておけば、それで十分役目を果たしているのです。

パソコンで作成できます

病歴・就労状況等申立書は、手書きで書かなければいけないというものではありません

人それぞれですが、パソコン操作に慣れている人は、手書きよりもパソコンの方が効率よく文章を作成できることと思います。

日本年金機構のホームページにはエクセルの様式が用意されており、ダウンロードして使用することができるようになっています。

冒頭部分の記入例

基本的には、一枠目に「発病から初診日までの状況」を記載し、二枠目に「初診医療機関を受診した期間の状況」を記載します(先天性疾患を除く)。

二枠目の日付は、受診状況等証明書に「初診年月日」と「終診年月日」が記載されていますので、それに合わせます。

また、「傷病名」は診断書の記載に合わせます。

「発病日」や「初診日」は年金請求書の記載と整合性がとれるようにしましょう。

病歴・就労状況等申立書の記入例(冒頭部分)

一枠目テキスト版

平成30年4月頃~平成30年7月14日

受診していない

子どもの中学受験の件で夫と意見が対立していた。夫の味方をする義母からもいろいろと小言を言われ、日常的にストレスを感じていた。
また、この時期、勤務先の仕事が多忙になり、業務量が増加した。残業をすると会社からも夫からも嫌味を言われるようになり、それもストレスであった。
さらに、一人っ子の長男が学校に行き渋るようになり、近所に住む義母に子どもの面倒を頼むことが多くなった。義母と顔を合わせるたびに嫌味を言われ、本当に嫌だった。
そのうちに、夜眠れない、せっかく寝ても朝早くに目が覚めてしまう、食欲がなくなる、気分が落ち込む、何事も悲観的に考えてしまう、何もかもが億劫に感じる等の症状が出るようになった。

二枠目テキスト版

平成30年7月15日~令和2年3月23日

受診した

○○メンタルクリニック

睡眠不足から仕事でのミスが増え、ますます気分が落ち込むようになった。そのため、近所の○○メンタルクリニックを受診。うつ病の可能性が高いと言われ、抗うつ薬や睡眠薬を処方された。以降、月1回の通院と服薬を継続。
平成30年10月頃には勤務先の業務量が通常に戻り、子どもの受験問題も解決した。そのため、本来の前向きで明るい性格に戻ったとは思えないものの、仕事も家事もどうにかこなすことができていた。ただ、朝早くに目が覚めてしまう症状は相変わらずであり、わけもなく気分が落ち込むこともあった。
令和2年3月、夫の転勤に伴い、住み慣れた○○県から○○県に引っ越しをすることになった。○○メンタルクリニックへの通院は難しいため、紹介状を書いてもらい転院することになった。

困っていることが具体的に伝わるように

「できないこと」をアピールする

病歴・就労状況等申立書は、その名のとおり「病歴」と「就労状況」、あるいは「生活状況」について記載する書類です。

請求する傷病によって日常生活や就労にいかに支障があるか、何ができなくて何に困っているのか(それがつまり「障害」です)を伝えるためのものです。

「できない自分」を客観視する必要があるため、場合によっては、自ら作成する際には気分が落ち込んでしまうこともあるかもしれません。

そのようなときには、しばらく時間を置いてみたり、代筆の依頼を検討してもよいかもしれません。

就職活動の逆バージョン?

就職・転職の際に作成する履歴書や職務経歴書では、「自分に何ができるか、自分の強みは何か」をアピールします。

ですが、病歴・就労状況等申立書では、「自分に何ができないか」を積極的にアピールしていくことになります。

履歴書や職務経歴書との【共通点】

ウソを書いてはいけません。

ただし、アピールしたい点を強調して書くことは必要です。なぜなら、アピールしたい点を伝えるための書類だからです。

私たちの日常生活にも言えることですが、本当に相手に伝えたいことは、意識的に強調しないとなかなか伝わらないものです。

具体性・客観性が大切

病歴・就労状況等申立書に必要とされるのは、具体性と客観性です。

障害年金は、書類のみの審査です。あなたのことを全く知らない人が読んだとき、困っている状況をすぐに理解できるような、具体的・客観的な記載が必要になります。

なかなか難しいことではありますが、「どのような状況でどのような支障があり、どのような援助を必要としているのか」、具体的なエピソードを交えて客観的事実として簡潔に記載するとよいでしょう

自分で作成する場合、どうしても「わかってほしい」という思いが強く出てしまいがちです。よって、自分自身の状況を客観視する第三者的な視点が大切になります

書く必要のないこと

請求傷病による障害と直結しないことは、書く必要がありません。たとえば、次のようなことです。

  • 経済的な困窮
  • 家庭内の不和
  • 世の中への恨みつらみ
  • 請求傷病とは関係のない、別の傷病による困りごと

※内面の苦しみや辛さを長々と伝えたくなってしまいますが、文章が長ければ認定されやすくなるというものではありません。

「別の傷病による困りごと」について

請求傷病と関係のない、別の傷病による困りごとをいくら書いても、焦点がぼやけるだけです。

たとえば、かなり極端な例ですが、「うつ病」で障害年金を請求する時期に、たまたま車のドアに指を強く挟み、「手の指を骨折」していたとします。まさに「泣きっ面に蜂」で気分がさらに落ち込み、いろいろと書き立てたくなります。

ですが、その骨折を強調しすぎると、どうでしょうか?その気分の落ち込みはうつ病によるものではなく、骨折による一時的なものだと思われてしまわないでしょうか?

では、そのような場合の書き方の例として、次のうちどちらが良いと思いますか?

A.「○年○月、車のドアに左手の指を強く挟み、人差し指を骨折してしまった。人差し指が使えずに本当に不自由な思いをしている。うつ病で気分が落ち込んでいるところ、さらに骨折までして生きていても良いことが何一つない。本当につらすぎる。死にたい気持ちが抑えられない。」

B.「○年○月、車のドアに左手の指を強く挟み、人差し指を骨折してしまった。このような不注意は、発病以前だったら考えられない。うつ病により日頃から考えがまとまらず、頭がボーっとしてしまう。そのために注意力も散漫になってしまい、このようなことが起きてしまった。」

どうでしょうか?おそらく、Bの方が、うつ病による障害が客観的に伝わるのではないでしょうか?

(例)うつ病の場合

たとえば、うつ病などの気分(感情)障害の場合、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」には、「各等級に相当すると認められるもの」の例示として、次の記載があります。

2級
気分(感情)障害によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの

3級
気分(感情)障害によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの

つまり、病歴・就労状況等申立書では、うつ病特有の「気分」「意欲・行動」「思考」の障害がたくさんあって、日常生活(就労)がもうダメだということをアピールしていけばよいわけです

うつ病特有の「気分」「意欲・行動」「思考」の障害(うつ病の症状)は、たとえば次のようなものです。これらの障害(症状)のため、日常生活や就労がかなりキツイということを具体的エピソードとともに記載していきます。

言い方を変えれば、次のような症状がひどかったときの状況を思い出し、そのときの状況・エピソードを記載していけばよいわけです

うつ病の症状の例

「気分」「意欲・行動」「思考」の障害の例

  • 気分が沈む
  • 憂うつ
  • 悲しい
  • 寂しい
  • なんとなく孤独を感じる
  • マイナス思考
  • 何でも悪い方に考える
  • 劣等感
  • 自責の念
  • 何もする気が起きない
  • 何をするにも億劫
  • 誰とも会いたくない
  • 好きだったことに興味や関心が持てなくなる
  • 仕事のやる気低下、能率低下
  • 記憶力の低下
  • 些細なことが決められない
  • むなしい
  • 死にたい
  • 寝つけない、眠りが浅い、早朝に目が覚める
  • 朝がつらく、夕方にかけて少し楽になる

などなど

(参考)身体症状の例

  • 体がだるい、重い
  • 食欲低下
  • 食事がおいしく感じない
  • 頭痛、頭重感
  • 微熱
  • 首や肩のこり
  • めまい、かすみ目
  • 耳鳴り
  • 胸の圧迫感
  • 胃もたれ、腹部膨満感
  • 体のしびれ
  • 動悸、息切れ
  • 下痢、便秘

などなど

記入例①

「これこれこういう出来事があって、気分が沈み、憂うつで、何をするにも億劫になった。また、胃もたれがひどく、食欲も低下した。そのため、○○医院を受診した。」

記入例②

「○○医院に月1回通院し、服薬も継続していたが、それでも無性に悲しく、憂うつで、何でも悪い方に考え、自殺まで考えるようになった。そして、これこれこういう出来事が起こった。」

自分なりのテーマを決める

病歴・就労状況等申立書を書くとき、あらかじめ自分なりのテーマを決めるのもよいかもしれません。

自分自身のこれまでを振り返り、診断書の内容と照らし合わせ、何が一番の困りごとなのかというテーマを決めます。

たとえばの話ですが、発達障害であれば「対人コミュニケーションの困難さ」をテーマとし、うつ病であれば「気分の落ち込み」をテーマとします。

そして、そのテーマを意識して記入していくことにより、一貫性のある、何に困っているのかがわかりやすい申立書が仕上がるかもしれません。

なお、テーマを決める際には、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」を見て、それに沿って考える必要があるでしょう。自分の請求傷病ではどのような障害が重視されているのか、認定基準を見ながら考えていきます。

シンプルな病歴・就労状況等申立書でも大丈夫

診断書の記載内容がしっかりしており、誰が見ても審査に通ると思えるようなものであるという前提ですが、病歴・就労状況等申立書の内容はシンプルで構いません。

文字数が足りないから審査に通らないなどということは、当然ながらありません。

そもそも、診断書がしっかり記入されており、かつ、発病から障害年金の請求まで比較的短期間である場合、ほとんど書くことがないというのが実際のところだと思います。

日常生活の困りごとがしっかりと診断書に記載されていれば、あとは淡々と時系列に沿って受診状況等証明書や診断書の内容をなぞって書いていくだけです。そのなかで特に強調しておきたいことがあれば、書いておけば間違いないでしょう。

ただし、しっかりと記入されている診断書であれば、その強調したいことすらも、すでに診断書に書いてあるのです。

蛇足は避けたい

あくまで私の個人的な推測ですが、診断書で重い評価を得ている項目について、病歴・就労状況等申立書に具体的記載をしてしまったばかりに、「あっ、これってその程度なの?」と思われてしまう可能性も、場合によっては無きにしもあらずかなという気がしないでもありません。

あなたが申し立てずとも、その症状の重さは、すでに医師によって専門的に診断されているのです。

よって、場合によっては、病歴・就労状況等申立書は「シンプル・イズ・ベスト」とも言えると思うのです。

作成時の教科書的な注意点

病歴について

発病から(知的障害や発達障害は出生日から)現在までを3年~5年ごとに区切り、空白期間がないように状況を記載します。

その際、病院名や診療科名、通院頻度や入院期間、治療内容や医師の指示、服薬の内容、症状の変化などを具体的に記載するようにします。

また、転院があればその理由についても記載し、受診していない期間があれば、その理由やその間の症状・生活状況・就労状況についても具体的に記載します。

就労状況について

休職期間や復職したときの状況、上司や同僚からのサポート、配置換えや短時間勤務への変更、勤務形態の変更、退職時期…等々、傷病に関連して起こった具体的エピソードを記載していきます。

生活状況について

ただ単に「援助が必要」と書くだけではなく、どのような場面で、誰からどのような援助を受けているのか、できるだけ具体的に記載します。

ポイントまとめ

  • 発病から初診日までの経過をできるだけ詳しく書く
  • 具体的な症状、治療内容、就労状況を書く
  • 何に困っているか、何ができないかを具体的に書く
  • 受診していなかった期間についても書き、空白期間がないようにする
  • 診断書・受診状況等証明書と内容が矛盾しないようにする
  • 文字の大きさなど、読みやすさにも気をつかう

病歴・就労状況等申立書に正解はない

病歴・就労状況等申立書を書くうえで一番難しいこと、それは「正解がない」ことだと思います。「こう書いてあれば完璧」、「これが書いてあれば100点」というような基準はありません。また、記入スペースにも限りがあります。

そのようななかで、いかに必要な情報を完結に記入することができるか…深く考え過ぎると、それだけで具合が悪くなってしまうかもしれません。

では、どうすれば良いのでしょうか?

どっちにしろ正解はないのですから、客観的事実を簡潔に記載していけば、それで良いのだと思います。100点満点の申立書を書く必要はありませんし、そもそも書けません。

それに、最重要書類は、あくまでも医師が作成する診断書です。

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