発達障害で障害年金をもらうには(3つの受給要件)

この記事の内容

発達障害は、障害年金の認定対象です。

この記事では、発達障害で障害年金をもらうための受給要件について記載しました。

次の順番で記載してありますので、ご自身が当てはまるかどうかの参考としてください。

  1. 認定基準と認定要領
  2. 初診日
  3. 保険料の納付要件

また、当Webサイト内の関連ページへのリンクを各所に貼っておきます。そちらも参考としてください。

🔗3つの重要書類と請求の流れ (wakamiya-sr.com)

認定基準・認定要領について

診断書が最重要書類です

ここでは、認定基準の記載を見ていきます。

障害年金の基本は、初診日から1年6か月後の「障害認定日」において、障害の状態が認定基準に該当するかどうかです。

ただ、障害認定日の時点で障害年金を請求するほどの状態ではなかったものの、その後状態が悪くなってしまった場合には、悪化した時点で請求することも可能です。

そして、障害の状態については、主に医師の診断書(障害年金専用の診断書)によって判断されます。

認定基準における発達障害とは

障害年金の認定基準において、発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされています。

認定の着目点

発達障害については、たとえ知能指数が高くても、次の点に着目して認定を行うとされています。

「社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受ける」

等級の例示

各等級に相当すると認められるものは、次のとおり例示されています。

1級
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの

2級
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの

3級
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの

日常生活能力の判定について

日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めることとされています。

私の考え

等級判定において日常生活能力の有無は重要な事項ですが、上記の「社会的な適応性の程度」とは、いったいどのようなことなのでしょうか?

これは、簡単に言えば、「周りの人が当たり前にできていることが、発達障害の特性のために、いかにできないか」ということなのではないかと思います。

就労しているとどうなるか

就労支援施設や小規模作業所などに参加する人に限らず、雇用契約により一般就労をしている人であっても、援助や配慮のもとで労働に従事しています。

したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している人については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断することとされています。

私の考え

実際には、一般雇用でフルタイム勤務ができていれば、障害年金の受給は難しいと思います。

なお、本人としては、苦労に苦労を重ねてやっとの思いで出社し、やっとの思いで仕事をこなしているというようなケースも多いと思います。

「かなりつらい思いをして、どうにかこうにか必死になって働いている」

「周囲の人たちのように余力を持って働けているわけではない」

このような思いもあることでしょう。

気持ちはわかります。

だた、おそらくですが、障害年金の支給不支給を審査する側からしてみれば、「本人の思いはどうであろうと、実際に働けていることに変わりはない」という考えなのだろうと思います。

つまり、本人の思いはどうであれ、出社して給料をもらい、それで生活できているのであれば、それは少なくとも「障害年金制度が想定する障害の状態」には該当しないということなのだと思います。

なかなか厳しい点だと思います。

でも、だからといって、障害年金のために退職するようなことをしては、本末転倒です。早まってはいけません。

実際に働いているのであれば、「どうすれば障害年金をもらえるか」を考えるよりも、「どうすれば少しでも気持ちに余裕を持って働けるようになるか」を考えた方が現実的ですし、また、そうすべきだと思います。

他の「認定の対象となる」精神疾患が併存しているとき

発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。

私の考え

「認定の対象となる精神疾患」が併存しているときですので、おそらく、認定の対象ではない人格障害や神経症が併存していても、総合的判断の対象にはならないのではないかと思われます。

つまり、認定対象外の精神疾患が併存しているときは、対象外の疾患による困りごとをアピールするのではなく、「発達障害そのもの(社会行動やコミュニケーション能力の障害)による日常生活上の制限」をアピールしていくのがよいかと思います。

初診日について

初診日の重要性

障害年金は、初診日を基準にして次の重要事項が決まります。

  • 請求する年金制度(障害基礎年金 or 障害厚生年金)
  • 年金の納付要件を満たしているか否か
  • 障害認定日

それほど重要な「初診日」ですが、発達障害の初診日はどの日なのでしょうか?

発達障害の初診日

発達障害の初診日は、初めて医療機関(精神科や心療内科)を受診した日です。

発達障害は、生まれながらの脳機能の障害であり、「生まれながら」という点では、生来性の知的障害と同じです。

ただ、障害年金請求においては、初診日の取り決めに違いがあります。

初診日の違い

  • 発達障害は、初めて医療機関(精神科や心療内科)を受診した日
  • 知的障害(生来性)は、生まれた日

注意点

発達障害の初診日は、「発達障害と診断された日」ではありません。

また、「発達障害と診断された医療機関を初めて受診した日」でもありません。

A病院で発達障害と診断される前に、たとえば睡眠障害や摂食障害、気分の落ち込みなどでB病院の精神科を受診していれば、B病院を初めて受診した日が初診日です。

請求するのは障害基礎年金か障害厚生年金か

障害年金は、初診日に加入していた年金制度により、請求する年金の種類(障害基礎年金 or 障害厚生年金)が決まります。

基本的には

障害基礎年金は、初診日に国民年金だけに加入していた場合に請求します。

たとえば、初診日に無職、学生、自営業、専業主婦(夫)だったような場合です。

それに対し、障害厚生年金は、初診日に厚生年金に加入していた場合に請求できます。

たとえば、初診日に会社員や公務員だった場合です。

注意点

初診日に夫が会社員であり、本人は専業主婦で扶養に入っていたような場合、本人が請求できるのは障害基礎年金です。

また、1級と2級しかない障害基礎年金に比べ、障害厚生年金は3級まであります。

「認定されるかどうか」や「もらえる年金額」を考えると、障害厚生年金の方が有利です。

しかし、上記のとおり、初診日に加入していた年金制度によって請求できる年金が決まります。

よって、自分で自由に選べるわけではありません。

初診日の証明方法

初診日は、基本的には「受診状況等証明書」という書類によって証明する必要があります。

受診状況等証明書は、医療機関において、初診日当時のカルテにもとづいて作成してもらいます。

詳しくは、下記リンク先のページを参考としてください。

🔗初診日の証明方法 (wakamiya-sr.com)

保険料納付要件について

初診日がはっきりとわかれば、年金保険料の納付要件を確認できます。

基本的な納付要件

納付要件

原則としては、初診日の前日において、初診日が属する月の前々月までに、保険料を納付した期間と免除となった期間を合わせた期間が、被保険者期間全体の3分の2以上あることが必要です。

ただ、初診日が令和8年3月末日までにあり、かつ、初診日に65歳未満である場合、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に未納期間がなければ、それで要件を満たすこととされています。

(参考)「初診日の前日において」の意味

障害年金は基本的に保険制度であるため、後出しジャンケンは認められません。

たとえばの話ですが、自動車保険の保険料10万円を滞納していた人が自動車事故を起こしてしまったとします。

その場合、事故後に、「今から保険料10万円を納めるから保険金500万円を支払ってくれ」と保険会社にお願いしても、当然ダメです。

同様に、障害年金においては、初診日(つまり、事故発生日)以後にいくら保険料を納めようと、ダメなものはダメなのです。

また、それに伴い、「初診日が属する月の前々月」以前の年金保険料を初診日以後に納めたとしても、「納付済み」としてはカウントされないことにも注意が必要です。

(参考)なぜ初診日が属する月の「前々月まで」の納付状況なのか?

これは、年金の納付期限が「翌月末」であることが関係していると思います。

つまり、今年の7月分の年金保険料は、今年の8月末までに納めなければなりません。

仮に初診日が8月10日であった場合、「前々月(6月)まで」ではなく「前月(7月)まで」の年金の納付状況が問われるとしたら、どうでしょうか?

7月分の納付期限は8月末であり、初診日の8月10日時点では、その人が7月分の年金を納めるのかどうかを判別できません。納付期限(8月31日)まであと21日もあるからです。

その点、「前々月(6月)まで」の納付状況を問うとすれば、6月分の年金の納付期限は7月末であり、初診日である8月10日時点で、「納付済み」or「未納」がはっきりしていることになります。

20歳前(年金制度加入前)に初診日がある場合

通常ですと、障害年金を受給するためには、上記の保険料納付要件を満たす必要があります。

ですが、就労して厚生年金の被保険者になっている場合を別にすると、国民年金に加入して保険料を納付するのは20歳になってからです。

そこで、そのような場合には、福祉的な意味合いで障害基礎年金を受給できることとされており、それが「20歳前傷病による障害基礎年金」です。

なお、初診日が20歳前であっても、すでに就職等しており、厚生年金の被保険者となっている場合には、障害厚生年金を通常どおり請求することとなります。

詳しくは、下記リンク先のページを参考としてください。

🔗20歳前傷病による障害基礎年金 (wakamiya-sr.com)

おわりに

ここまで見てきたように、発達障害での障害年金は、次の3つを満たせば支給されます。

  1. 初診日の確定と証明
  2. 保険料の納付要件
  3. 発達障害による障害の状態が、認定基準に該当

障害年金の手続きは複雑と言われますが、このように見てみるとけっこう単純です。

ただ、その手続き、つまり「自分が障害年金を支給されてしかるべきであるという事実を自ら証明する作業」を「認定基準を満たすほどの障害の状態にある人」がやらざるを得ないという点が難しく、ここに障害年金請求のジレンマがあると思います。

家族や病院関係者等、手伝ってくれる人や代わりに手続きしてくれる人がいればよいのですが、そうでない人にとってはなかなか骨の折れる作業です。

ですので、そのような人は、ぜひ社労士に相談や依頼をしてみてください。

社労士はきっとあなたの力になれるはずですし、あなたは報酬の支払いによって社労士の生活を支えることができるはずです。

そして、その社労士はまた別な人の力になることができ、その力は、間接的にあなたの力でもあるのです。

あなたの力で、障害年金によって少しでも安心感を得られる人を増やしていきましょう。

それは、立派な社会貢献です。