障害年金を遡ってもらうための条件(遡及請求できる人できない人)

この記事の内容

インターネットでよく目にする遡及請求

過去5年分の遡及に成功し、初回支給額400万円!いや、800万円!いやいや、1千万円!

目がくらむような大金ですが、当然のことながら、誰もがもらえるわけではありません。

では、どのような人がもらえるのでしょうか?

最低でも、次の条件を満たしていることが必要です。

  • 初診日から1年6か月後の「障害認定日」に、認定基準に定める障害の状態にあること
  • 障害認定日から3か月以内に医療機関を受診していること
  • 障害認定日から現在まで、認定基準に該当する障害の状態が一貫して継続していること

障害認定日に障害の状態にあること

認定日請求とは

障害年金の請求において、いつの時点の障害の状態が重視されるのでしょうか?

「基本」となるのは、初診日から1年6か月後の「障害認定日」です。

障害認定日から3か月以内の状態を診断書に記載してもらい、障害認定日から1年以内に提出する。

それが障害年金請求の「基本形」で、「認定日請求」と呼ばれるものです。

Q & A

なんで障害認定日から1年以内に提出するの?

診断書に記載されている障害の状態が、「障害認定日から1年間に予想される障害の状態」を含むためです。

そのため、認定日から1年以上経過してしまえば、現在の状態が記載されている診断書が別途必要になります。

事後重症請求とは

障害年金請求の基本形は、上記の認定日請求です。

ただ、誰もが障害認定日の時点で障害の状態にあるわけではありません。

その頃には症状が軽かったけど、その後悪化してしまったというケースの方が多いと思います。

そして、そのようなケースに対応するために「事後重症請求」という請求方法が用意されています。

事後重症の「事後」とは「障害認定日の後」のことであり、「障害認定日の後に重症化してしまった」場合の請求方法というわけです。

遡及請求とは「認定日請求」を遡って行うこと

では、遡及請求とはいったい何なのでしょうか?

簡単に言ってしまえば、障害認定日から1年以上経過した後に「認定日請求」を行うことです。

あるいは、本来であれば過去に行う必要のあった「認定日請求」を遡って行うことです。

このように、遡及請求はあくまで認定日請求ですので、初診日から1年6か月後の「障害認定日」時点で、認定基準で定める障害の状態に該当している必要があるのです。

障害認定日当時に医療機関を受診していること

認定日当時の診断書を書いてもらうために

では、障害認定日の時点で認定基準に該当していることは、どのように証明されるのでしょうか?

障害の状態の証明ですので、それは「医師が作成する診断書(障害年金専用の診断書です)」によって証明することになります。

では、障害認定日時点の診断書を作成してもらうためには、何が必要でしょうか?

それは、次のようなことです。

  1. 障害認定日当時に受診していること
  2. 当時の診療録(カルテ)が医療機関に残っていること
  3. 当時の診断書を書いてくれる医師がいること

順に見ていきます。

1)障害認定日当時に受診していること

診断書は診療録(カルテ)をもとに作成してもらうため、障害認定日当時に受診していることが必要です。

さらに言えば、障害認定日から3か月以内の診断書を提出する必要があるため、障害認定日から3か月以内に受診していることが必要です。

医師といえども診察せずに診断はできないので、受診していない人の診断書を作成することはできません。

そのため、障害認定日当時に診察を受けていなければ、当然診断書を作成してもらうことはできず、したがって、遡及請求をすることはできません。

2)当時の診療録(カルテ)が医療機関に残っていること

仮に障害認定日から3か月以内に受診していたとしても、その当時の診療録(カルテ)が医療機関に残っていなければ、診断書を作成してもらうことはできません

診断書のもととなる診療録(カルテ)がないのですから、当然のことです。

障害認定日が何十年も前になるような場合、このような診療録(カルテ)が残っていないケースも十分考えられます。

3)診断書を書いてくれる医師がいること

運よく障害認定日から3か月以内に受診しており、そして診療録(カルテ)が残っていたとしても、当時診察を受けた医師がすでに在籍していないような場合であれば、診断書を書いてもらうことはできないかもしれません

残っている診療録(カルテ)をもとに他の医師が診断書を書いてくれればよいのですが、ケースバイケースでしょう。

障害認定日から現在まで一貫して障害の状態にあること

障害の状態に該当しない期間は支給の対象外

遡及請求が認められるには、障害認定日から現在まで、一貫して障害の状態にあること(認定基準に該当するような障害の状態にあること)が必要となります。

障害認定日の時点では認定されるような障害の状態だったものの、その後回復し、最近再び障害の状態に該当するようになったというような場合、遡及請求は認められません。

なぜなら、たとえ障害認定日に認定されるような障害の状態であったとしても、「その後回復」した時点で、障害年金は支給停止になっているはずだからです。

障害基礎年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつたときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。

国民年金法 第36条2項から抜粋

障害厚生年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつたときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。

厚生年金保険法 第54条2項から抜粋

病歴・就労状況等申立書の内容も一層重要になる

遡及請求を行う場合には、診断書の内容が重要なのは当然のこととして、病歴・就労状況等申立書の内容もより一層重要になってきます。

それは、遡及が認められるに足る客観的事実を漏らさず書くことが一層大切になるという意味です。

客観的事実で判断される

また、基本的なことですが、障害年金は傷病に対して支給されるものではありません。傷病による障害の状態に対して支給されるものです。

よって、「○○と診断され、通院しつつも仕事はなんとか続けられていた」というよう場合、それはたしかに○○という疾患でつらい思いはしているのでしょうが、認定基準に定める「障害の状態」には該当しないと考えたほうがよいと思います。

つまり、障害認定日以降にそのような期間があれば、遡及請求は難しくなると考えた方がよいでしょう。

本人としては、「苦労してなんとか仕事を続けていた。本当につらかった。」という思いはあるのでしょうが、「苦労した」「つらかった」という本人の思い(主観)はあまり関係なく、「仕事を続けられていた」という客観的事実が重視されると考えておいた方がよいのだと思います。

なお、この場合の「仕事」は、厚生年金に加入するようなフルタイム勤務です。

5年間遡れるが、任意の時点に遡れるわけではない

遡及できない例

次のような場合、遡及請求はできるでしょうか?

  • 10年前の障害認定日の時点では、認定基準に該当するほどの状態ではなかった
  • ただ、今は該当するような障害の状態である
  • そして、今と同じような状態は3年前からずっと続いている
  • だから、3年間遡って障害年金を受給したい

答えは、「できない」です。

障害認定日は勝手に変えられない

すでに記載した通り、遡及請求とは「本来は障害認定日時点で行うべきであった認定日請求を、認定日から1年以上経過した後に行うこと」です。

認定日請求ですので、当然、初診日から1年6か月後の障害認定日時点の障害の状態が問われます。

そして、障害認定日は「〇年〇月頃から障害の状態になったから、○年○月を障害認定日にしてほしい」というように任意に決められるものではありません。初診日から1年6カ月後と決まっているのです。

「遡って受給できる」と聞くと、「自分が障害の状態になった時期に任意に遡ることができる」というふうに思ってしまうかもしれませんが、それは間違いです。

上記のようなケースで3年遡って受給できるような制度は、我が国には存在しません。

よって、上記のようなケースでは「事後重症請求」となり、現在から未来に向かっての受給となるのです。

(参考)5年の時効とはどういうことか

※簡略化しているので正確性には欠けますが…

例)障害認定日が平成21年で、平成31年に遡及請求(遡っての認定日請求)が認められた場合

障害年金の受給権は平成21年に発生するので、本来であれば、平成21年から平成30年までの過去10年分が遡及分として支給されるはずです。

しかしながら、5年の時効があるため、平成21年分を受給する権利は、5年後の平成26年で消滅してしまいます。

同様に、次の通り受給権が消滅していきます。

  • 平成22年分は、5年後の平成27年に消滅
  • 平成23年分は、5年後の平成28年に消滅
  • 平成24年分は、5年後の平成29年に消滅
  • 平成25年分は、5年後の平成30年に消滅

つまり、まだ時効となっていない平成26年~平成30年の過去5年分を受給できるというわけです。

障害年金は早めに請求した方がよい

年月がたてばたつほど難しくなる

ここまで見てきたように、過去の状態を証明して遡及請求で認定されるには、様々なハードルがあります。

また、診断書を入手できるかどうかなど、年月が過ぎれば過ぎるほど難易度が高くなっていきます

繰り返しになりますが、障害年金の基本形は、「障害認定日から3か月以内の状態を診断書に記載してもらい、障害認定日から1年以内に提出する。」というものです。

そのため、もしも障害認定日時点で障害の状態に該当すると思えば、早めに障害年金の請求について準備を始めることをおすすめします

数百万円の損をしていることもある

遡及で数百万円が一気に支給されると得をしたような気分になるかもしれませんが、上の時効の例で示したように、実際には損をしていることも多いです。

本来10年分の受給権があるのに時効で5年分しかもらえなければ、単純に5年分を損したようなものです。

障害基礎年金2級で年額80万円とすれば、10年で800万円もらえたところ、半分の400万円しかもらえないということです。

このような損をしないために、また、障害の状態の証明のしやすさという観点からも、早めの障害年金請求をおすすめします。

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