障害年金で重要な「学生納付特例制度」

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障害年金は、初診日の前日時点で「年金保険料の納付要件」を満たしていないと、どれほど重い障害の状態であっても支給されません。

そのような事態を避けるため、そして、いざというときに後悔しないようにするため、「学生納付特例制度」を活用しましょう。

令和6年度の国民年金保険料は、月額16,980円

月額 16,980円

20歳になったばかりの学生にとって、この保険料は高いでしょうか?それとも、安いでしょうか?

年間にして、20万円を超える保険料です。しかも、令和5年度は月額16,520円でしたので、ひと月460円、年間で5,520円の負担増となっています。

おそらく、多くの学生にとっては、「とても高い」のではないでしょうか。若い学生にとって、自分が年金をもらうなんて、まだまだ何十年も先の話。自分には全く関係のない、別世界の話だと思います。そのため、「そんなお金があれば、もっと別のことに使いたい」と思うのが、自然なことだと思います。

ただ、「そのうち就職したら嫌でも払うんだから、とりあえずは放っておこう」と考えて本当に放っておくと、いざというときに後悔するかもしれません

高くて払えないから未納でいい?

あなたは、こんな風に考えたことはありませんか?

  • 年金なんて、払ったところでどうせもらえない
  • 年金なんて、納めたら負け
  • 年金を馬鹿正直に納めるなんて、頭の悪いやつのやることだ

でも、ちょっと待ってください。

未納だとどうなるか(ある大学生の例)

たとえばの話ですが、あなたは21歳で、年金を一度も納めたことのない大学生だとします。後々、障害によって日常生活に困難が生じた際、無事に障害年金の受給までこぎつけられるでしょうか?

初診日は21歳

たとえば、あなたが「大学生活に上手く馴染めず、精神的な不調を感じている21歳の大学生」だとします。20歳になって以降、お金に余裕もないし、年金は納めていません。

ある日、あなたは、精神的につらい日々が続くため、近所のメンタルクリニックを受診しました。その際、発達障害の疑いがあると言われ、後日検査を行ったところ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されます。自分自身のこれまでを振り返ると、たしかに思い当たる節があります。

大学を卒業し、就職するも

その後、頑張り屋さんのあなたは大学を卒業し、就職します。期待を胸に、社会人としての第一歩を踏み出したわけです。自閉症スペクトラムゆえの特性はあるものの、今までもやってこれたし、これからも頑張れば、きっと上手くやっていけるだろうと考えます。

ところが、会社員生活は想像以上に難しいものでした。あなたは職場でのコミュニケーションが上手くとれず、マルチタスクをこなすことができず、臨機応変な対応ができず、入社半年で退職。その後も、短期間での入退社を繰り返します。そうこうするうちに、精神的不調が悪化、とても働くことができない状態となり、実家にて引きこもり状態の日々となりました。

そして、主治医の勧めで、障害年金を申請しようと考えます。

年金事務所に相談に行くも

あなたは、両親と一緒に最寄りの年金事務所に相談に行き、21歳の頃のメンタルクリニック受診が初診日であることを伝えました。しかし、21歳の初診日前日時点で、20歳以降の年金がすべて未納であるため、障害年金の申請はできないと伝えられます。

初診日は簡単に証明でき、障害の状態は認定基準を十分に満たしています。しかしながら、20歳~21歳のわずか1~2年の年金納付を怠ったばかりに、年間にして約80万円、その後も状態が変わらなければ、5年間で400万円、10年間で800万円、20年間で1,600万円の障害年金が、受給できないことになってしまったのです。

非常に悔やまれますが、あなたは当時お金に余裕がなく、年金を納めることができませんでした。では、どうすればよかったのでしょうか?

障害年金の納付要件の解説

ここで、障害年金を申請するうえで大切な、「年金保険料の納付要件」についての解説です。

障害年金は、「初診日の前日」時点での納付状況が問われる

障害年金を申請する際の「年金保険料の納付要件」は、「初診日の前日」が基準となります。

原則としては、「初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間が3分の2以上であること」が必要です。

ただ、初診日が令和8年3月末までの期間にあり、かつ、初診日時点で65歳未満であれば、「初診日の前日において、初診日の前々月までの1年間に、保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間(=未納期間)がなければ、それで要件クリア」ということになっています。

ここで重要なのは、「保険料納付済期間」には、「免除期間」と「納付猶予期間」、そして「学生納付特例期間」が含まれるという点です。

「初診日以後」にどれだけ納付しようと関係ない

保険というのは、基本的に、「何かあったときの補償ために、あらかじめ保険料を納めるもの」です。「何かあってから、後出しじゃんけんで保険料を納めること」はできません。

がんになってからがん保険に加入して保険料を支払うことはできず、死亡してから生命保険に加入して保険料を支払うことができないのと同じことです。

そして、障害年金の場合、「何かあったとき」の基準とされるのは「初診日」であり、その初診日以降にいくら保険料を納めても、それは後出しじゃんけんで意味がないということになります。

そのため、もし過去の未納分を後から納めるにしても、それが「保険料納付済期間」としてカウントされるためには、その納付日は「初診日の前日以前」であることが必要になります。

学生納付特例制度の申請をしよう

さて、上記の例のように、20歳になって国民年金に加入したものの、お金に余裕のなかったあなたはどうするべきだったのでしょうか?

それは、お察しの通り、「すみやかに学生納付特例制度の申請手続きをするべきだった」ということになります。

これをお読みになっている学生さんで、もしも「未納期間」がある方は、すみやかに学生納付特例の申請手続きを行ってください。

申請手続きとか面倒なので、後回しにしたいのですが?

ダメです。すみやかな申請手続きを強くおすすめします。

仮に「初診日以後」の申請の場合、いざというときに障害年金の受給ができなくなることがあります。

過去に遡って学生納付特例を申請することはできるの?

申請時点の2年1か月前の月分まで遡って申請することができます。

ただし、繰り返しになりますが、仮に「初診日以後」の申請の場合、いざというときに障害年金の受給ができなくなることがありますので、すみやかに申請してください。

学生納付特例制度とは

「学生納付特例制度」って何?

国民年金保険料の納付が猶予される制度です。

対象となるのは、どんな人?

前年の所得が基準以下の学生です。

所得の基準は?

令和5年度時点での目安は、次の通りです。

「128万円 + (扶養親族等の人数 × 38万円)」で計算した額以下

あくまで「学生本人の所得」です。両親等の所得は関係ありません。

対象は大学生だけ?

そのようなことはありません。

大学、大学院、短大、高等学校、高等専門学校、専修学校、各種学校(学校教育法で規定されている修業年限が1年以上の課程のある学校)が対象です。

「未納」とは何が違うの?

障害年金の保険料納付要件に関しては、「猶予期間」が「保険料納付済期間」に含まれるのに対し、「未納期間」は当然含まれません。

どちらも「年金保険料を納めない」という点では同じですが、その結果がまったく異なったものとなります。

申請手続きは難しい?どうすればいいの?

手続きは簡単です。

「申請書による申請」と「電子申請」の二通りがあり、申請書による申請であれば、次のような流れになります。

申請書の入手
申請書は、市(区)役所または町村役場の国民年金窓口や年金事務所、日本年金機構
ホームページで入手できます。

🔗国民年金保険料の学生納付特例制度|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
申請書の記入
申請書に添付されている記入例を参考に記入します。
申請書の提出
提出先は、住民票を登録している市(区)役所または町村役場の国民年金窓口です。

申請の際には、学生証などの学生であることを証明するものが必要です。
審査結果の確認
申請後、日本年金機構から「承認通知書」または「却下通知書」が届きます。
(1)「承認通知書」が届いた場合、承認期間は4月~翌年3月の1年間となります。すでに保険料を納めた月分は、学生納付特例の期間にはなりません。

(2)「却下通知書」が届いた場合、保険料を納付する必要があります。

電子申請の場合の申請方法

(1)マイナンバーカードを準備し、マイナポータルへアクセス

(2)マイナポータルのトップ画面の「年金の手続をする」を選択し、マイナポータルへログイン
「国民年金に関する手続き」画面で、希望する手続きを確認し「手続に進む」を選択し、マイナ
ンバーカードの読み取りを行う。

(3)案内に従い必要事項を入力して申請を行う
申請の際は、在学期間がわかる学生証の画像(裏面に有効期限、学年、入学年月日の記載がある場合は裏面も含む)または在学証明書の画像のアップロードが必要。

学生納付特例の期間があると、将来の年金額(老齢年金の受給額)はどうなるの?

学生納付特例の承認を受けた期間があると、保険料を全額納付したときに比べ、将来受け取る老齢年金の額が少なくなります。

学生納付特例期間の保険料は、あとから納めることができるの?

承認を受けた期間の保険料は、10年以内であれば、あとから納めること(追納)ができます。追納すればしただけ、将来受け取る老齢年金の額が満額に近くなります。

ただし、承認を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に追納する場合、承認当時の保険料に経過期間に応じた加算額がプラスされます。詳しくは、年金事務所等でご確認ください。

いざというとき後悔しないように

ここまで、20歳以上の学生で、年金保険料を納めることが難しい人は、すみやかに「学生納付特例」の申請手続きをしましょうということを述べてきました。それを怠ると、いざというときに、障害年金の申請ができなくなってしまうことがあるからです。

別の言い方をすれば、20歳以上の学生にとって重要なことは、「未納」にしないことです。

そもそも、「未納」という選択肢があると考えることが間違いであり、「納付」か「学生納付特例」か、この二択しかないのです。

もちろん、年金保険料をきちんと納めるに越したことはありません。

でも、事情は人それぞれです。もし納めるのが難しいのであれば、必ず「学生納付特例」の申請手続きをしましょう。その手続きを怠ることは、自分で自分の首を絞めるのと同じことなのです。

関連リンク

国民年金保険料の学生納付特例制度|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

国民年金に関するパンフレット|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

学生納付特例制度のパンフレット.pdf (nenkin.go.jp)