メンタル不調で休職中の人の障害厚生年金3級
この記事の内容
メンタル不調で働けない……
そんな人のために、健康保険の「傷病手当金」や公的年金の「障害年金」があります。
もらう順番としては、通常、①傷病手当金、②障害年金です。
それなりに順風満帆な人生を歩んできたものの、仕事上の人間関係などで心のバランスを崩し、精神科や心療内科を生まれて初めて受診し、休職し、給料がもらえなくなり、傷病手当金を受給。
治療をするも、思うように回復せず、職場に復帰できず、傷病手当金の受給期限が切れる……
そこで登場するのが障害年金です。
障害年金は、初診日時点で保険料の納付要件を満たしており、初診日から1年6か月が経過した日(障害認定日)において認定基準に該当する障害の状態にあれば、支給される可能性があります。
ここでは、そんな障害年金のうち、メンタル不調で休職した人に一番身近といえる「障害厚生年金3級」について解説します。
該当すると思う方は、請求を検討してみてはいかがでしょうか?
傷病手当金について
健康保険の傷病手当金制度については、以下のリンクを参考としてください。
🔗病気やケガで会社を休んだとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
🔗傷病手当金と障害年金は、両方同時にもらえるのか? (wakamiya-sr.com)
障害厚生年金3級で認定される条件
初診日に厚生年金の被保険者であること
障害年金は、初診日に加入していた年金制度(国民年金 or 厚生年金)により、障害基礎年金を請求するのか障害厚生年金を請求するのかが決まります。
初診日に国民年金だけに加入していた人(自営業、無職、学生など)は、障害基礎年金を請求することになり、初診日に厚生年金に加入していた人(会社員など)は、障害厚生年金を請求することになります。
よって、どちらを請求するのか、自分で選べるわけではありません。
障害厚生年金を請求するためには、初診日において厚生年金の被保険者である必要があるのです。
なお、両者の大きな違いの一つに、等級が2級までしかないのか、それとも3級まであるのかという点があります。
障害基礎年金は2級までしかなく、障害厚生年金は3級までありますので、初診日に厚生年金に加入していた人の方が、障害の程度という点では認定されやすいということになります。
大まかに言って、2級は「日常生活に著しい制限があること」が要件であり、3級は「労働に著しい制限があること」が要件ですので、この違いは大きいものと思います。
また、あくまでイメージですが、メンタル不調で休職中の場合、「日常生活に著しい制限があるというわけではないが、働けるほどの状態には回復できていない」というケースが多いのではないかと思います。
保険料納付要件を満たしていること
障害年金は基本的に保険制度であり、受給するためには保険料の納付要件を満たしている必要があります。
そして、いつの時点で満たしていればよいのかというと、それは「初診日の前日時点」ということになっています。
では、納付要件とはいったいどのようなものかといえば、次のようなものです。
原則としては、初診日の前日において、初診日が属する月の前々月までに、保険料を納付した期間と免除となった期間を合わせた期間が、被保険者期間全体の3分の2以上あることが必要です。
言い方を変えれば、未納期間が全体の3分の1を超えてはいけないということです。
ただ、初診日が令和8年3月末日までにあり、かつ、初診日に65歳未満である場合、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に未納期間がなければ、それで要件を満たすこととされています。
そのため、まずは直近1年間の納付状況を確認し、未納期間がなければそれで要件クリア。
もし直近1年間に未納期間があれば、全体の3分の2以上の期間が納付済み期間(免除期間を含む)となっているのかを確認することとなります。
ざっくり言えば、「とりあえず初診日より前の1年数か月間が厚生年金の被保険者であれば、何ら問題なし」ということになります。
たとえば、令和6年の7月に初診日がある場合、令和5年6月~令和6年5月(初診日の前々月)の1年間が厚生年金の被保険者であれば、それでOKということです。
障害の状態が認定基準に該当すること
上記の2つの要件については、当てはまるのか当てはまらないのかがハッキリとわかるものであり、特に悩むような余地はないかと思います。
それに比べ、この「障害の状態が認定基準に該当するかどうか」という点については、請求書類を提出してみないとわからないというのが実際のところです。
ただ、どのような状態が認定基準に該当するかという例示はされており、これをもとにある程度の推測は可能です。
そこで、ここでは、「気分(感情)障害」と「発達障害」について、3級の例示を見ていきます。
うつ病など気分(感情)障害の場合
認定基準における3級の例示
気分(感情)障害によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの
上記の例示を言い換えると、次のようになるかと思います。
①関心・興味の減退、意欲・気力の減退、知的活動能力の減退などがある
②必ずしも病状が著しいわけではないが、症状が持続し、あるいは、繰り返している
③病気の症状のために労働が制限されている
これは、かなり乱暴な言い方ではありますが、ひとことで言ってしまえば「病気の症状により気分が落ち込んで働けない」ということかと思います。
なお、気分(感情)障害に分類される精神疾患は、ICD - 10(国際疾病分類第10版)によると次のものです。
- 躁病エピソード
- 双極性感情障害(躁うつ病)
- うつ病エピソード
- 反復性うつ病性障害
- 持続性気分(感情)障害
- その他の気分(感情)障害
- 詳細不明の気分(感情)障害
ASDやADHDなど発達障害の場合
認定基準における3級の例示
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの
上記の例示を言い換えると、次のようになるかと思います。
①発達障害のために社会性やコミュニケーション能力が不十分である
②発達障害のために社会行動に問題がある
③上記2点が両方あるために、労働が著しい制限を受ける
たしかに、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、なおかつ社会行動に問題があれば、労働は自ずと著しい制限を受けざるを得ないかと思います。
逆に言えば、まがりなりにも一般就労(フルタイム勤務)ができていれば、「社会性やコミュニケーション能力が不十分で、なおかつ社会行動に問題がある」とは言えないのではないかということです。
また、発達障害の人の多くは、何らかの精神疾患(二次障害)を併発しています。
最初に精神科や心療内科を受診したきっかけも、二次障害によるメンタル不調のためという人も多いのではないでしょうか。
しかし、認定基準でポイントとなるのは、気分の落ち込み等ではありません。
気分(感情)障害のポイントと混同しないように気をつけましょう。
主治医に確認してみる
ここまで、「気分(感情)障害」と「発達障害」の3級の例示を見てきました。
ただ、自分が障害年金をもらうほどの状態なのかどうかについて、なかなか自分では判断できないというのが実際のところかと思います。
そのため、主治医に「障害年金の請求を考えていること」を伝え、意見を聞いてみることをおすすめします。
いずれにせよ、障害年金を請求するためには、主治医の診断書が必要です。
よって、事前に相談してみて損はないはずです。
ぜひ確認してみてください。
適応障害や不安障害は対象外
ここまで、メンタル不調で障害厚生年金3級を受給するための条件について見てきました。
ここで一点注意しなければならないのは、同じメンタル不調でも、「神経症」と呼ばれる精神疾患は原則として障害年金の対象外であるということです。
メンタル不調で休職中の場合、「適応障害」や「不安障害」の診断を受けている人も多いかと思います。
これらは「神経症」に含まれますので、原則として障害年金の対象外ということになります。
神経症とは何かといえば、例えば適応障害や不安障害など、ICD - 10(国際疾病分類第10版)で「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」に分類されるものです。
より具体的には、次の精神疾患が神経症に含まれます。
- 恐怖症性不安障害
- その他の不安障害
- 強迫性障害(強迫神経症)
- 重度ストレスへの反応及び適応障害
- 解離性(転換性)障害
- 身体表現性障害
- その他の神経症性障害
まとめ
メンタル不調で働くことができなくなった場合、簡単な手続きで所得補償を受けられればいいのですが、現実的にはそのようなシステムになっていません。
ただでさえメンタル不調なところ、お金の心配が重なると、余計に調子が悪くなっていってしまいます。
その点、あらかじめ障害年金という制度について知っておき、自分が障害厚生年金3級に該当しそうだとわかっていれば、多少は安心感を得ることができます。
たとえそれで生活のすべてを賄えなくても、安定収入があるということは、間違いなくメンタル面の安定につながります。
制度を知り、少しでも安心感のある生活につなげたいものですね。