ひきこもりと発達障害と障害年金
この記事の内容
ひきこもりで苦しんでいる人のなかには、診断を受けてはいないものの、発達障害の人もいるのではないでしょうか。
そのような人は、医療機関を受診し、発達障害の診断を受け、障害者手帳・障害者雇用・障害年金等の制度を活用することにより、視界がひらける可能性があります。
ただし、障害年金の受給を考える場合、初診日の前日時点で問われる年金保険料の納付要件に気をつけましょう。
ひきこもりは悪いことか?
「ひきこもり」は、必ずしも悪いことではありません。特に、若い人にとっては、自分自身と向き合うための貴重な体験となり得ます。
しかし、本人が現状に苦しんでおり、自己肯定感が低下し、自分自身に価値がないと感じ、死んでしまいたいとさえ思っているような場合、それは脱すべき状態と言えます。
「ひきこもらざるを得ないから、ひきこもっている。しかし、本当に苦しくつらい。どうにかして現状を変えたい。変えなくてはならないことは分かっている。しかし、どうしていいかわからない。どうすることもできない。」
そのような八方塞がりの状況は、本当につらく苦しいものだと思います。
また、ひきこもりによる二次障害(たとえば、抑うつ状態や強迫性障害など)に苦しんでいる人も多いかと思います。
何からのひきこもりなのか?
では、ひきこもりの人は、いったい何からひきこもっているのでしょうか?
それは、人間社会からのひきこもりです。人間社会から身を引き、自室にこもっているわけです。
では、人間社会とは何でしょうか?
それは、複雑怪奇に絡み合った対人関係・対人コミュニケーションです。
そこでは、自分の都合と他人の都合、自分の思惑と他人の思惑に上手い具合に折り合いをつけ、主張すべきは主張し、譲歩すべきは譲歩し、場面によって様々な役割を使い分け、生活を成り立たせていかなくてはなりません。
難しいようですが、これは、世の中の大多数の人にとっては、特に意識せずとも、深く考えずとも、自然にできていることです。子供から大人になるにつれて、自然と身についていくもの(つまり、社会性)です。
しかし、これは、難しい人にとっては本当に難しいことです。理屈がわかるからできるというものではありません。
そして、生まれつきの特性により、対人関係の構築が非常に難しい人が、発達障害(主に自閉症スペクトラム)の人たちです。
発達障害の診断を受けることのメリット
ひきこもる人のなかには、診断を受けていない発達障害の人が少なからずいると思います。
このような人たちが発達障害の確定診断を受けると、どんな利点があるのでしょうか?
ここでは、障害者手帳、障害者雇用、障害年金の対象になるという点で、メリットがあると考えます。
障害者手帳を取得できるかもしれない
発達障害は、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の対象です。
初診日から6か月が経過すれば、医師の診断書等を提出することにより、取得の申請をすることができます。
手帳があれば、障害者雇用の対象になる
障害者手帳を所持していれば、障害者雇用の対象になります。
ひきこもり状態を脱していきなり働くことは難しいかもしれませんが、しかるべき配慮を受けつつ、就労することができます。
🔗障害者雇用とは?一般雇用との違い、メリット、デメリットなどを解説 | LITALICO仕事ナビ (snabi.jp)
🔗精神障害者の就労支援と障害年金 (wakamiya-sr.com)
障害年金を受給できるかもしれない
発達障害は、障害年金の認定対象です(「精神の障害」に含まれます)。
要件を満たせば、障害年金受給の可能性があります。
🔗障害年金3つの受給要件 (wakamiya-sr.com)
障害年金の認定の着目点
発達障害は、知能指数が高くても、次の点に着目して認定が行われます。
「社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受ける」
障害年金のために気をつけたいこと
障害年金の受給要件の一つに「保険料納付要件」があり、「初診日の前日」時点での納付状況が問われます。
これをクリアできないことには、どれほど重い障害があろうと、障害年金を受給することはできません。
保険料納付要件とは
障害年金の申請における保険料納付要件は、次のとおりです。
保険料納付要件
原則としては、初診日の前日において、初診日が属する月の前々月までに、保険料を納付した期間と免除となった期間を合わせた期間が、被保険者期間全体の3分の2以上あることが必要。
ただし、初診日が令和8年3月末日までにあり、かつ、初診日に65歳未満である場合、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に未納期間がなければ、それで要件を満たすこととされている。
初診日の前日が基準
障害年金の申請を見据えて医療機関を受診しようとする場合、上記の「納付要件」を頭の片隅に置いておくと、後々後悔するようなことを防げるかもしれません。
すでに精神的不調で医療機関を受診したことのある人は別ですが、今後初めて精神科や心療内科を受診するような人は、注意が必要です。
一度でも受診してしまうと、通常であれば、そこがいわゆる「初診日」となります。
障害年金を申請する際の保険料納付要件は、「初診日の前日」時点の納付状況が問われます。納付要件を満たさないまま受診してしまえば、それでアウトです。発達障害で障害年金を申請することは、一生できなくなると言えます。
年金の納付状況を含めた障害年金の相談は、最寄りの年金事務所でできます。納付状況に不安のある人は、受診前に一度確認・相談してみるのも良いかと思います。
まとめ
ひきこもりで苦しい思いをしており、発達障害の疑いがあると思われる人は、医療機関を受診して発達障害の診断を受ければ(医師に診断書を書いてもらえれば)、障害者手帳取得や障害年金受給の可能性があります。
それらによって視界がひらける可能性も十分あると思いますので、初診日と年金の納付状況の関係に注意しつつ、受診を検討してみるのもよいでしょう。
関連リンク
🔗ご本人がひきこもりの状態にある場合の相談先について - 発達障害情報のポータルサイト (hattatsu.go.jp)
🔗長引くひきこもりの陰で~見過ごされる中高年の発達障害~ - NHK クローズアップ現代 全記録
ひきこもり支援施策(参考)
下記のひきこもり支援施策についてのご紹介です。
- 地域若者サポートステーション(2006年度~)
- ひきこもり対策推進事業(2009年度~)
- 子ども・若者育成支援推進法(2010年~)
また、2020年度に厚生労働省が作成した「ひきこもりに関する事例集(本人・家族向け)及びヒント集(支援者向け)」についてもご紹介しています。
地域若者サポートステーション(サポステ)
2006年度、「ひきこもり」や「ニート」等の若者の職業的自立を促すための機関として「地域若者サポートステーション(愛称「サポステ」)」が設置されるようになりました。
若者支援等で実績のある民間団体等に事業委託し、就労に向けた支援を実施しています。
🔗サポステ[地域若者サポートステーション] (mhlw.go.jp)
🔗地域若者サポートステーション |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
対象
働くことに悩みを抱えている15歳から49歳までの人です。
所在地
全ての都道府県に設置されています(全国に177か所)。
たとえば群馬県の場合、次の2か所です。
🔗ぐんま若者サポートステーション – 働きたいけど一歩が踏み出せない15歳から49歳までの若者の就職支援を行っています。 (gunma-sapo.info)
ひきこもり対策推進事業
2009年度に「ひきこもり対策推進事業」が創設されました。
これは、各都道府県・指定都市に、「ひきこもり地域支援センター」を整備するものです。
ひきこもり地域支援センターでは、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等の資格を有する「ひきこもり支援コーディネーター」が、本人や家族等からの相談に応じています。
🔗群馬県ひきこもり支援センターのご案内 - 群馬県ホームページ(こころの健康センター) (pref.gunma.jp)
🔗ひきこもり支援センターのご案内 (pref.gunma.jp)
🔗ひきこもり支援推進事業 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
🔗ひきこもりVOICE STATION|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
子ども・若者育成支援推進法
2010年には「子ども・若者育成支援推進法」が施行されています。
これにより、ニート、ひきこもり、不登校などの総合相談窓口として、「子ども・若者総合相談センター」が設置されるようになりました。
これは、「子ども・若者育成支援に関する相談に応じ、関係機関の紹介その他必要な情報の提供及び助言を行う拠点」とされています。
なお、令和4年1月1日時点において、群馬県内に「子ども・若者総合相談センター」は設置されておりません。
🔗子ども・若者支援地域協議会、子ども・若者総合相談センター - 内閣府 (cao.go.jp)
ひきこもりに関する事例集・ヒント集
厚生労働省では、2020年度(令和2年度)委託事業において、ひきこもり本人やその家族が相談機関を訪れるきっかけとなるよう、ひきこもり経験者の歩みを集めた事例集を作成しました。
また、行政機関をはじめとする様々な場所で支援に携わる人に向けて、行政機関等における支援体制の具体例や様々な支援場面での対応をまとめたヒント集を作成しました。
【ひきこもり本人・家族向け】
🔗ひきこもり経験者の社会参加の事例集 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)