高次脳機能障害は障害年金の対象です
この記事の内容
高次脳機能障害は、障害年金の認定対象です。
リハビリ等で思うような回復が見られない場合、障害年金請求を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事では、認定基準の一部を記載するとともに、高次脳機能障害の基礎知識についても記載しています。
障害認定基準の記載
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、障害年金の認定基準において、「症状性を含む器質性精神障害」として分類されています。
認定基準の記載は次の通りで、診断書は「精神の障害用」を使用します。
認定基準の記載
高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会生活に制約があるものが認定の対象となる。
その障害の主な症状としては、失語、失行、失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがある。
なお、障害の状態は、代償機能やリハビリテーションにより好転も見られることから療養及び症状の経過を十分考慮する。
また、失語の障害については、本章「第6節 音声又は言語機能の障害」の認定要領により認定する。
等級の例示
1級
高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの
2級
認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級
1. 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの
2. 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの
障害手当金
認知障害のため、労働が制限を受けるもの
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高次脳機能障害の原因となる主な疾患
高次脳機能障害の原因となる疾患には次のようなものがあり、脳損傷の原因となる多くの疾患が含まれています。
- 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患
- 頭部外傷などの外傷性脳損傷
- 脳炎、髄膜炎などの脳の炎症性疾患
- 低酸素脳症などの脳症
- 多発性硬化症などの脳の脱髄性疾患
- 脳腫瘍(原発性、転移性)
- てんかんなどの発作性疾患
また、年代別にどのような疾患が高次脳機能障害の原因となることが多いかは、次のようになります。
- 幼児期:脳炎後遺症
- 青年期:外傷性脳損傷
- 壮年期:くも膜下出血
- 老年期:脳梗塞や脳出血
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害は、交通事故や脳梗塞・脳出血などにより脳を損傷した後、その後遺症により日常生活や社会生活に支障をきたす障害です。
麻痺や言語障害等、目に見える障害が残る場合もありますが、見えづらい障害が残った場合、周囲の人から気づいてもらいにくく、「人が変わった」「怠け者になった」などと誤解されることもあります。
ここでは、主な後遺障害である次の4つについて紹介します。
- 記憶障害
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 社会的行動障害
記憶障害
記憶障害の主な症状は、たとえば次のようなものです。
- 発症後や受傷後に知り合った人の名前など、新しいことが覚えられない
- ついさっき言ったことや行なったことが曖昧になる
- 約束や予定を忘れる
ただ、本人が以前から身につけていた習慣や技術など、繰り返し体で覚えてきたことは、あまり忘れていないことが多いようです。
また、最近のヒットソングなど興味や関心があることは覚えられる傾向にあります。
なお、この記憶障害のために就労が困難となるケースは多く、それは、新しい仕事の知識や手順を覚えられなかったり、約束事を忘れたり、仕事の進捗を把握できなかったりするためです。
注意障害
注意障害では、たとえば次のような症状があり、作業が遅くミスが多くなります。
- 一つのことを続けられない
- 気が散りやすい
- 複数のことを同時に行うと混乱する
遂行機能障害
遂行機能障害では、たとえば次のような症状があります。
- 仕事の優先順位がつけられない
- 仕事を途中で投げ出してしまう
- 仕事を効率よく処理することができない
- 行動の計画が立てられない
社会的行動障害
社会的行動障害は、下記のような様々な症状の総称です。
これは、日常生活や社会生活を送るうえで最も厄介な症状です。
よって、この社会的行動障害をいかに上手くコントロールできるかが、高次脳機能障害のある人のケアの成否を決めるカギとなります。
対人技能拙劣
「言外の意味」や「言葉の裏」を読むことが困難となる症状です。
相手の気持ちや状況を斟酌することが苦手になり、自分の意見を一方的に押し付けるため、他人と上手くコミュニケーションをとることが難しくなります。
依存性・退行
態度や行動が子どもっぽくなり、何かあるとすぐに親や周囲に頼るようになります。
意欲・発動性の低下
周囲から促されない限り自発的に何かをすることがなく、意図的な努力をすることが難しくなります。
固執性
何か一つのことを始めると周囲のことを気にせずやり続け、あるいは、こだわりを何度も主張するといったように自己中心的になります。
感情コントロールの障害
些細なことで感情が爆発し、暴言や暴力をふるうようになる症状です。
欲求コントロールの障害
何かを欲しいと思うと我慢できなかったり、食べ物をあるだけ食べてしまったり、お金を全部使ってしまったりします。
また、性的な衝動を我慢できず、性的な逸脱行動をとり、犯罪の原因となってしまうこともあります。
高次脳機能障害の経過
高次脳機能障害は、受傷・発症から間もない時期であれば回復していきます。
そして、回復の可能性は、訓練を開始する時期が早ければ早いほど高くなります。
訓練の種類は、次の3つです。
- 医学的リハビリテーションプログラム
- 生活訓練プログラム
- 就労移行支援プログラム
高次脳機能障害の支援施策
高次脳機能障害のある人は、かつて医療と福祉の谷間にあり、必要な支援を受けることが困難でした。
そのような状況から、当事者や家族が徐々に声を上げ、2001年(平成13年)から5年間、国による「高次脳機能障害支援モデル事業」が実施されました。
そのなかで診断基準が策定され、診断基準に該当すれば、精神障害者保健福祉手帳の対象となることが明確化されました。
その後、障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)で都道府県が行う事業として「高次脳機能障害支援普及事業」が開始され、2010年(平成22年)からはすべての都道府県において実施されました。
さらに、2013年(平成25年)からは、「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」として実施されています。
これは、診断基準にある4症状(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害)の他に、失語症など他の障害を合併する場合が多いため、「関連障害」が名称に付け加えられたものです。
群馬県の場合は、前橋赤十字病院が高次脳機能障害の支援拠点機関とされており、専門的な相談を受け付けています。
なお、2011年(平成23年)には、「高次脳機能障害情報・支援センター」が埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンター内に設置され、ここで集約・分析された情報を当事者や家族、支援関係者などに提供しています。