精神の障害に係る等級判定ガイドラインとは
精神障害や知的障害の認定は、明確な基準(検査数値など)を定めることが難しく、よって一律な認定も難しいものとなっています。
また、障害基礎年金の審査は、かつて都道府県ごとに行われており、地域によって支給・不支給の決定に差が生じていました。その地域差を解消するため、平成28年9月から「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、「ガイドライン」)」が運用されています。
等級のおおよその目安がわかる
このガイドラインに記載されている「障害等級の目安」と診断書の記載内容を照らし合わせることにより、障害等級の何級に該当するか、おおよその目安がわかるようになっています。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の認定は、療養状況や生活環境、就労状況などを考慮して総合的に判断される点に注意が必要です。
また、総合的な判断の際に具体的にどのようなことが考慮されるのかについて、ガイドラインには「総合評価の際に考慮すべき要素の例」が記載されています。
つまり、障害の程度の認定の際には、「障害等級の目安」を参考としつつ、「総合評価の際に考慮すべき要素」を考慮したうえで、総合的に判定が行われることになります。
以下にガイドラインの一部を引用します。繰り返しになりますが、「等級判定の目安」はあくまで目安であることに注意しましょう。
第3 障害等級の判定
障害認定基準に基づく障害の程度の認定については、このガイドラインで定める後記1の「障害等級の目安を参考としつつ、後記2の「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で例示する様々な要素を考慮したうえで、障害認定診査医員(以下「認定医」という。)が専門的な判断に基づき、総合的に判定する(以下「総合評価」という。)。
国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン
総合評価では、目安とされた等級の妥当性を確認するとともに、目安だけでは捉えきれない障害ごとの特性に応じた考慮すべき要素を診断書等の記載内容から詳しく診査したうえで、最終的な等級判定を行うこととする。
注意
障害年金の請求は、診断書の点取りゲームではありません。
てんかんはガイドラインの対象外
このガイドラインは「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」です。
当然、精神科系の疾患が対象になるわけですが、「てんかん」については対象傷病から除外されています。
なぜかというと、てんかんについては発作の重症度と頻度等で等級判定が行われるものであり、それに関してはガイドラインによらずとも、すでに障害認定基準に規定されているからです。
障害等級の目安の求め方
ガイドラインでは、診断書ウラ面の「日常生活能力の判定」の評価と「日常生活能力の程度」の評価をもとに、何級に相当するかの目安が確認できるようになっています。
目安を確認するための表と、その表の見方は下記の通りです。
表の見方
縦軸の「判定平均」は、診断書のウラ面左側にある「2 日常生活能力の判定」の4段階評価について、程度の軽い方から1~4の数値に置き換え、その平均を算出したものです。
横軸の「程度」は、診断書のウラ面右上にある「3 日常生活能力の程度」のことです。
「程度」と「判定平均」の交わる箇所が、該当する障害等級の目安となります。
表内の「3級」については、障害基礎年金では「2級非該当」と置き換えます。
障害等級の目安のもとになる評価項目
繰り返しになりますが、障害等級の目安は、診断書ウラ面の「日常生活能力の判定」の評価と「日常生活能力の程度」の評価をもとに求められます。
では、それらはどのような評価項目なのでしょうか。順に見ていくことにしましょう。
日常生活能力の判定
まず、「日常生活能力の判定」についてです。
診断書に記載のあるとおり、いずれの項目も、一人暮らしをするとしたら可能かどうかを医師が判断します。
※ 身体的機能の障害に起因する能力の制限(たとえば下肢麻痺による歩行障害など)は、この診断書による評価の対象としません。
※ 「できる」とは、日常生活および社会生活を行う上で、他者による特別の援助(助言や指導)を要さない程度のものを言います。また、「行わない」とは、介護者に過度に依存して自分でできるのに行わない場合や、性格や好き嫌いなどで行わないことは含みません。
以下、「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」からの抜粋です。
1や2が多いと、認定基準に該当しない可能性が高くなります。
(1)適切な食事
※ 嗜癖的な食行動(たとえば拒食症や過食症)をもって「食べられない」とはしない。
1 できる
栄養のバランスを考え適当量の食事を適時にとることができる。(外食、自炊、家族・施設からの提供を問わない)
2 自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
だいたいは自主的に適当量の食事を栄養のバランスを考え適時にとることができるが、時に食事内容が貧しかったり不規則になったりするため、家族や施設からの提供、助言や指導を必要とする場合がある。
3 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
1人では、いつも同じものばかりを食べたり、食事内容が極端に貧しかったり、いつも過食になったり、不規則になったりするため、経常的な助言や指導を必要とする。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
常に食事へ目を配っておかないと不食、偏食、過食などにより健康を害するほどに適切でない食行動になるため、常時の援助が必要である。
(2)身辺の清潔保持
1 できる
洗面、整髪、ひげ剃り、入浴、着替え等の身体の清潔を保つことが自主的に問題なく行える。必要に応じて(週に1回くらいは)、自主的に掃除や片付けができる。また、TPO(時間、場所、状況)に合った服装ができる。
2 自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
身体の清潔を保つことが、ある程度自主的に行える。回数は少ないが、だいたいは自室の清掃や片付けが自主的に行える。身体の清潔を保つためには、週1回程度の助言や指導を必要とする。
3 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
身体の清潔を保つためには、経常的な助言や指導を必要とする。自室の清掃や片付けを自主的にはせず、いつも部屋が乱雑になるため、経常的な助言や指導を必要とする。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
常時支援をしても身体の清潔を保つことができなかったり、自室の清掃や片付けをしないか、できない。
(3)金銭管理と買い物
※ 行為嗜癖に属する浪費や強迫的消費行動については、評価しない。
1 できる
金銭を独力で適切に管理し、1ヵ月程度のやりくりが自分でできる。また、1人で自主的に計画的な買い物ができる。
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
1週間程度のやりくりはだいたい自分でできるが、時に収入を超える出費をしてしまうため、時として助言や指導を必要とする。
3 助言や指導があればできる
1人では金銭の管理が難しいため、3~4日に一度手渡して買い物に付き合うなど、経常的な援助を必要とする。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
持っているお金をすぐに使ってしまうなど、金銭の管理が自分ではできない、あるいは行おうとしない
(4)通院と服薬
1 できる
通院や服薬の必要性を理解し、自発的かつ規則的に通院・服薬ができる。また、病状や副作用について、主治医に伝えることができる。
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
自発的な通院・服薬はできるものの、時に病院に行かなかったり、薬の飲み忘れがある(週に2回以上)ので、助言や指導を必要とする。
3 助言や指導があればできる
飲み忘れや、飲み方の間違い、拒薬、大量服薬をすることがしばしばあるため、経常的な援助を必要とする。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
常時の援助をしても通院・服薬をしないか、できない。
(5)他人との意思伝達及び対人関係
※ 1対1や集団の場面で、他人の話を聞いたり、自分の意思を相手に伝えたりするコミュニケーション能力や他人と適切につきあう能力に着目する。
1 できる
近所、仕事場等で、挨拶など最低限の人づきあいが自主的に問題なくできる。必要に応じて、誰に対しても自分から話せる。友人を自分からつくり、継続して付き合うことができる。
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
最低限の人づきあいはできるものの、コミュニケーションが挨拶や事務的なことにとどまりがちで、友人を自分からつくり、継続して付き合うには、時として助言や指導を必要とする。あるいは、他者の行動に合わせられず、助言がなければ、周囲に配慮を欠いた行動をとることがある。
3 助言や指導があればできる
他者とのコミュニケーションがほとんどできず、近所や集団から孤立しがちである。友人を自分からつくり、継続して付き合うことができず、あるいは周囲への配慮を欠いた行動がたびたびあるため、助言や指導を必要とする。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
助言や指導をしても他者とコミュニケーションができないか、あるいはしようとしない。また、隣近所・集団との付き合い・他者との協調性がみられず、友人等とのつきあいがほとんどなく、孤立している。
(6)身辺の安全保持及び危機対応
※ 自傷(リストカットなど行為嗜癖的な自傷を含む。)や他害が見られる場合は、自傷・他害行為を本項目の評価対象に含めず、⑩障害の状態のア欄(現在の病状又は状態像)及びイ欄(左記の状態について、その程度・症状・処方薬等の具体的記載)になるべく具体的に記載してください。
1 できる
道具や乗り物などの危険性を理解・認識しており、事故等がないよう適切な使い方・利用ができる(例えば、刃物を自分や他人に危険がないように使用する、走っている車の前に飛び出さない、など)。また、通常と異なる事態となった時(例えば火事や地震など)に他人に援助を求めたり指導に従って行動するなど、適正に対応することができる。
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
道具や乗り物などの危険性を理解・認識しているが、時々適切な使い方・利用ができないことがある(例えば、ガスコンロの火を消し忘れる、使用した刃物を片付けるなどの配慮や行動を忘れる)。また、通常と異なる事態となった時に、他人に援助を求めたり指示に従って行動できない時がある。
3 助言や指導があればできる
道具や乗り物などの危険性を十分に理解・認識できておらず、それらの使用・利用において、危険に注意を払うことができなかったり、頻回に忘れてしまう。また、通常と異なる事態となった時に、パニックになり、他人に援助を求めたり、指示に従って行動するなど、適正に対応することができないことが多い。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
道具や乗り物などの危険性を理解・認識しておらず、周囲の助言や指導があっても、適切な使い方・利用ができない、あるいはしようとしない。また、通常と異なる事態となった時に、他人に援助を求めたり、指示に従って行動するなど、適正に対応することができない。
(7)社会性
1 できる
社会生活に必要な手続き(例えば行政機関の各種届出や銀行での金銭の出し入れ等)や公共施設・交通機関の利用にあたって、基本的なルール(常識化された約束事や手順)を理解し、周囲の状況に合わせて適切に行動できる。
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用について、習慣化されたものであれば、各々の目的や基本的なルール、周囲の状況に合わせた行動がおおむねできる。だが、急にルールが変わったりすると、適正に対応することができないことがある。
3 助言や指導があればできる
社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用にあたって、各々の目的や基本的なルールの理解が不十分であり、経常的な助言や指導がなければ、ルールを守り、周囲の状況に合わせた行動ができない。
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
社会生活に必要な手続きや公共施設・交通機関の利用にあたって、その目的や基本的なルールを理解できない、あるいはしようとしない。そのため、助言・指導などの支援をしても、適切な行動ができない、あるいはしようとしない。
日常生活能力の程度
次に、「日常生活能力の程度」です。
以下、診断書(精神の障害用)ウラ面からの抜粋です。
1や2にマルがついていると、認定基準に該当しない可能性が高いです。
精神障害の日常生活能力の程度
(1)精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。
(2)精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
(たとえば、日常的な家事をこなすことはできるが、状況や手順が変化したりすると困難を生じることがある。社会行動や自発的な行動が適切に出来ないこともある。金銭管理はおおむねできる場合など。)
(3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
(たとえば、習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とする。社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある。金銭管理が困難な場合など。)
(4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
(たとえば、著しく適正を欠く行動が見受けられる。自発的な発言が少ない、あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。金銭管理ができない場合など。)
(5)精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(たとえば、家庭内生活においても、食事や身のまわりのことを自発的にすることができない。また、在宅の場合に通院等の外出には、付き添いが必要な場合など。)
知的障害の日常生活能力の程度
(1)知的障害を認めるが、社会生活は普通にできる。
(2)知的障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
(たとえば、簡単な漢字は読み書きができ、会話も意思の疎通が可能であるが、抽象的なことは難しい。身辺生活も一人でできる程度)
(3)知的障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
(たとえば、ごく簡単な読み書きや計算はでき、助言などがあれば作業は可能である。具体的指示であれば理解ができ、身辺生活についてもおおむね一人でできる程度)
(4)知的障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
(たとえば、簡単な文字や数字は理解でき、保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理解し、身辺生活についても部分的にできる程度)
(5)知的障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(たとえば、文字や数の理解力がほとんど無く、簡単な手伝いもできない。言葉による意思の疎通がほとんど不可能であり、身辺生活の処理も一人ではできない程度)
総合評価の際に考慮すべき要素の例
障害等級の判定において、「障害等級の目安」と同様に重要なのがこの「総合評価の際に考慮すべき要素の例」です。
これは、診断書の記載項目を下記の5分野に区分し、その分野ごと、さらに障害種別ごとに考慮すべき要素とその例を示したものです。
- 現在の病状又は状態像
- 療養状況
- 生活環境
- 就労状況
- その他
注意点としては、この考慮すべき要素はあくまで例示であり、これがすべてではないということです。
例示にない診断書の記載内容についても同様に考慮され、そのうえで総合的に評価されます。
以下、ガイドラインから抜粋したものを記載します。
ここでは便宜的に「精神障害」「知的障害」「発達障害」の障害種別ごとに上記5分野について記載しています。
実際には…
実際問題として、以下の例示がどれだけ考慮されているのかは不透明です。
たとえば、一般就労をしていても支給されるような記述がありますが、実際には、一般就労ができていれば支給されないというのが「常識」であり、まあその通りなのだろうと思います。
あくまでガイドラインは「方針」「指針」であり、等級判定の方向性を示したものにすぎません。
このページで紹介しているガイドラインにも、これにより、精神障害及び知的障害に係る認定が「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」に基づき適正に行われるよう改善を図ることを目的とすると記載されています。ガイドラインは基準ではありません。
一方、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」には、精神の障害による障害の程度は、次により認定するという記載があり、ガイドラインが認定基準の補助的立ち位置にあることがわかります。