この記事の内容
障害年金を請求するうえで、非常に重要な意味を持つのが初診日です。
初診日とは、障害の原因となった傷病につき、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。
ここでは、その初診日をどのように確認し証明するのか、その方法についてご説明いたします。
初診日の重要性
初診日は、(1)被保険者要件、(2)保険料納付要件、(3)障害要件という、障害年金の3つの受給要件の基準になるものです。
(1)被保険者要件については、初診日にどの年金制度に加入していたのかにより、障害基礎年金と障害厚生年金のどちらを請求できるかが決まります。
(2)保険料の納付要件については、初診日の前日において要件を満たしているかを確認します。
(3)障害要件については、初診日から1年6か月後が障害認定日とされます。
この重要な初診日を証明するための書類が、医療機関に作成を依頼する受診状況等証明書です。
受診状況等証明書
受診状況等証明書は、医療機関において、初診日当時のカルテにもとづいて作成してもらうものです。
そのため、当時のカルテが残っていることが必要です。
カルテの保存期間は原則5年
医師法等によりカルテの保存期間は5年と定められており、5年以上前のカルテが残っているかどうかは医療機関により異なります。
まずは、初診日当時のカルテが残っているかどうか、医療機関に確認することになります。
カルテの保存期間は、いつの時点から5年間ですか?
診療の「完結の日から5年間」です(医師法第24条、歯科医師法第23条、保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条)
簡単に言えば、「最終記載日から5年間」、あるいは、「最後に受診した日から5年間」ということになります。
参考ページ
「前医」の記載の有無
カルテが残っており、無事に受診状況等証明書を入手できたら、「発病から初診までの経過」欄に「前医」についての記載があるかどうかを確認します。
もし「前医」について記載があれば、その受診状況等証明書を作成してもらった医療機関は、最初に受診した医療機関、つまり「初診日」に該当する医療機関ではないということになります。
その場合、記憶違いということもありますので、改めて「前医」の医療機関に受診状況等証明書の作成を依頼することになります。
受診状況等証明書が不要な場合もあります
病気やケガで受診してから一度も転院していない場合、つまり最初から今までずっと同じ医療機関に診てもらっている場合には、受診状況等証明書は不要です。
そのようなケースでは、受診状況等証明書と診断書を作成してもらう医療機関は同じであり、診断書に初診日の記載欄があるためです。
ただ、同じ病院ではあるものの、規模の大きな病院で診療科が途中で変更となっている場合には、最初に受診した診療科に受診状況等証明書を作成してもらう必要があります。
また、生まれながらの知的障害の場合には、受診状況等証明書は不要です。生年月日が初診日となるためです。
カルテなし、または廃院の場合
最初に受診した医療機関にカルテが残っていなかったり、あるいは廃院していたり、場合によっては受診状況等証明書を取得できないことも珍しいことではありません。
そのようなときには、受診してきた医療機関を思い出し、古い順にカルテの有無を問い合わせていきます。
一番最初に受診した医療機関にカルテが残っていない → 二番目に受診した医療機関にもカルテが残っていない → 三番目に…という具合に確認していき、「カルテが残っているもっとも昔に受診した医療機関」に受診状況等証明書を作成してもらいます。
たとえば
たとえば、一番最初に受診した医療機関と二番目に受診した医療機関にカルテがなく、三番目に受診した医療機関に残っていれば、三番目に受診した医療機関に受診状況等証明書を作成してもらいます。
受診状況等証明書が添付できない申立書
医療機関にカルテが残っているかどうかを受診した順に確認していき、仮に三番目に受診した医療機関で受診状況等証明書を取得できたとします。
そのような場合、一番目と二番目に受診した医療機関については、受診状況等証明書が添付できない申立書をそれぞれ用意する必要があります。この場合であれば、計2通必要ということです。
さらに、ただ申立書を用意すればよいというわけではなく、この申立書には、それぞれに初診日に関する参考資料を添付する必要があります。
参考資料については、誰が見ても納得できるようなものが用意できればよいのでしょうが、なかなか難しいのが現実だと思います。
それでも、数が多ければそれだけ信憑性が増すものだと考えられますので、関係ありそうなものはとにかく添付しておくのがよいでしょう。
初診時の医療機関の証明が得られないとき
①第三者証明(2通)と参考資料による方法
初診日が何十年も前である場合など、初診時の医療機関の証明を得ることが不可能なケースもあるかと思います。
カルテの廃棄や廃院などにより、どの病院でも証明を得られない場合です。
そのようなとき、初診日当時の状況を見たり聞いたりした第三者に証明してもらう方法、それが第三者証明です。
この第三者証明に用いる初診日に関する第三者からの申立書は、基本的には2通必要です。
つまり、2名の第三者に証明してもらう必要があるということです。
ただし、請求者の三親等内の親族は、第三者証明を行うことができません。関係が近すぎると、客観性が損なわれるためです。
第三者証明は、以下のいずれかに該当する内容であることが必要です
初診日頃の状況を見ていた
第三者証明を行う者が、請求者の初診日頃の受診状況を直接的に見て認識していた場合に、その受診状況を申し立てるもの
初診日頃に、初診日頃の状況を聞いていた
第三者証明を行う者が、請求者や請求者の家族等から、請求者の初診日頃に、請求者の初診日頃の受診状況を聞いていた場合に、その聞いていた受診状況を申し立てるもの
5年以上前に、初診日頃の状況を聞いていた
第三者証明を行う者が、請求者や請求者の家族等から、請求時から概ね5年以上前に、請求者の初診日頃の受診状況を聞いていた場合に、その聞いていた受診状況を申し立てるもの
第三者としてもっとも適した人
では、第三者としてもっとも適した人、もっとも信頼性が高い人は、どのような人でしょうか。
それは、初診日の頃に直接的に診療に関わった医師や看護師などの医療従事者です。
この医療従事者による申し立てがあれば、受診状況等証明書と同等のものとして、それだけで初診日の証明となります。
よって、この場合に限っては、2名分の申立書を用意する必要もありません。医療従事者1名の申立書があればよいのです。
このように、第三者証明を依頼する相手によって信用度には差があります。
できれば、審査において信用度が高いとされる人からの証明を得たいものです。
そのため、下記の順に依頼を検討してみるとよいでしょう。
第三者証明を依頼する順番
1)初診日の診療に直接的に関係のある医療従事者
2)初診日の診療に直接関係ないものの、初診日当時の受診状況を知る医療従事者(友人・知人など)
3)初診日当時の受診状況を知る会社の上司や人事担当者、学校の先生など
4)初診日当時、病院への送迎を行うなど直接的に受診にかかわった友人・知人
5)5年以上前に、受診したことを本人や家族から聞いたことのある人
第三者証明には参考資料も必要
なお、第三者証明には、初診日に関する参考資料を添付する必要もあります。
第三者証明に必要なもの
- 受診状況等証明書が添付できない申立書
- 初診日に関する第三者証明書(2通)
- 請求者が申し立てた初診日に関する参考資料
②初診日が記載された、請求の5年以上前のカルテ等を用意する方法
請求の5年以上前に医療機関が作成した資料(カルテ等)に、請求者が申し立てた初診日が記載されている場合、それを初診日と認めることができるとされています。
なお、そのカルテ等が5年以上前のものではないものの相当程度前である場合には、初診日について参考となる他の資料(第三者証明は含まれない)とあわせて初診日を認めることができるとされています。
必要なもの
- 受診状況等証明書が添付できない申立書
- 請求の5年以上前に医療機関が作成したカルテの写し等であって、請求者が申し立てた他の医療機関での初診日が記載されているもの
③一定期間に初診日があることを証明する方法
まず、次の1~4のいずれかに該当することが必要です。
いずれかに該当することが必要
1.その一定期間中、同一の年金制度(国民年金・厚生年金)に継続的に加入しており、当該期間中のいずれの時点においても年金保険料納付要件を満たしている場合
2.その一定期間の全期間が20歳前の期間である場合(当該期間内に厚生年金加入期間がある場合を除く)
3.その一定期間の全期間が60歳~65歳の期間であり、当該期間中のいずれの時点においても年金保険料納付要件を満たしている場合(当該期間内に厚生年金加入期間がある場合を除く)
4.その一定期間中、異なる年金制度(国民年金と厚生年金など)に加入しており、当該期間中のいずれの時点においても年金保険料納付要件を満たしており、かつ、請求者が申し立てた初診日に関する参考資料を用意した場合
そして、上記の1~4のいずれかに該当した場合であって、かつ、下記の資料により初診日が一定期間内にあることが確認された場合は、請求者が申し立てた初診日が認められます。
必要なもの
- 受診状況等証明書が添付できない申立書
- 一定期間の始期に関する参考資料
- 一定期間の終期に関する参考資料
- 請求者が申し立てた初診日に関する参考資料(上記「4」の場合のみ必要)
たとえば
たとえば、上記1~4のうちの「1」の場合、発病前の健康診断の結果と二番目以降の病院の受診記録をあわせて提出します。
これによって、日付は特定できなくとも、少なくともその期間中に初診日があることを明らかにします。
そして、その期間中に、国民年金なら国民年金にずっと加入しており、かつ、その期間中のどの時点においても保険料の納付要件を満たしていれば、初診日と認められるということです。
これはつまり、一定期間(始期~終期)のどこに初診日があっても納付要件を満たす場合、少なくとも障害基礎年金は支給されるということです。
もし、国民年金の加入期間と厚生年金の加入期間が入り混じっているときに、初診日が厚生年金の加入期間であると主張する場合には、初診日に関する参考資料をそろえる必要があります。
余談ですが
精神疾患の場合、発病していないことを証明できる資料を用意することは、かなり難しいことのように思います。
ただでさえ客観的な検査数値等のない精神疾患について、「ないことの証明」は「悪魔の証明」といえるのではないでしょうか。
障害年金の初診日に関する調査票
上記のとおり、初診日の確認は受診状況等証明書などによって行われますが、状況によっては、そのほかに「障害年金の初診日に関する調査票」(以下、「調査票」)の提出が必要になることがあります。
この調査票は、傷病に応じて以下の8種類があります。
調査票が必要な場合
どのような場合に提出が必要となるかというと、次のような場合です。
なお、調査票の内容は、「初めて自覚症状を覚えたのはいつ頃ですか」、「健康診断で指摘されたことはありますか」等のアンケートのようなものです。
私の雑感
初診日の医療機関に当時のカルテが残っていない場合、障害年金請求は一気に難易度が上がるように思います。
医療機関にカルテが残っていないほど昔の受診に関して、はたして本人が何らかの資料を手元に残しているのか……残していない人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
それでも、どうにかして初診日を証明しなければならないのが障害年金請求です。
受診状況等証明書には有効期限がないため、これだけ早めに取得しておけばよいのですが、普段私たちは障害年金請求を前提として医療機関を受診していませんので、なかなか難しいところです。
もし、「将来的に障害年金を請求するかもしれない」という予感がする人は、受診状況等証明書だけ取得しておくのも一つの方法だと思いますよ。