3つの認定方法
複数の傷病がある場合、下記の3つの方法により障害認定が行われます。
- 併合(加重)認定
- 総合認定
- 差引認定
以下、順に確認していきましょう。
なお、複数の精神疾患がある場合は、「総合認定」となります。
併合(加重)認定
併合(加重)認定とは
次の場合に、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の【別表1 併合判定参考表】や【別表2 併合(加重)認定表】に基づき行われる認定方法です。
併合(加重)認定が行われる場合
・障害認定日において、認定の対象となる障害が 2つ以上ある場合(併合認定)
・「はじめて2級」による障害基礎年金または障害厚生年金を支給すべき事由が生じた場合(併合認定)
・障害基礎年金受給権者及び障害厚生年金受給権者(障害等級が1級若しくは2級の場合に限る。)に対し、さらに障害基礎年金または障害厚生年金(障害等級が1級若しくは2級の場合に限る。)を支給すべき事由が生じた場合(加重認定)
※2級+2級の場合は、併合判定参考表に当てはめずとも1級となります。
以下、具体例で確認していきます。
2つの障害が併存する場合
この場合、次の順序で障害の程度が認定されます。
1)まず、【別表1 併合判定参考表】で個々の障害について該当する番号を求める
2)次に、その該当番号をもとに、【別表2 併合(加重)認定表】で「併合番号」を求める
3)最後に、求めた「併合番号」から障害の程度(何級に該当するか)を求める
具体例
例)右手のおや指及びひとさし指を併せ一上肢の4指の用を廃し、視力の良い方の眼の視力が0.1になった場合
まず、【別表1 併合判定参考表】で個々の障害について該当番号を求めます。
右手の障害について
障害の状態
右手のおや指及びひとさし指を併せ一上肢の4指の用を廃したもの
併合判定参考表
7号-5
眼の障害について
障害の状態
視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの
併合判定参考表
6号-1
次に、【別表2 併合(加重)認定表】により、上位の障害6号と下位の障害7号の併合番号4号を求め、2級と認定されます。
3つ以上の障害が併存する場合
障害が3つ以上併存する場合は、次のように認定されます。
1)まず、【別表1 併合判定参考表】から各障害についての番号を求める
2)次に、上記により求めた番号の最下位及びその直近位について、【別表2 併合(加重)認定表】により「併合番号」を求める
3)以下順次、その求めた「併合番号」と残りのうち最下位のものとの組合せにより、最終の「併合番号」を求める
4)最終の「併合番号」から障害の程度(何級に該当するか)を求める
具体例
例)左下肢を大腿部から切断し、視力の良い方の眼の視力が 0.1 になり、右上肢のひとさし指、なか指及び小指を近位指節間関節より切断し、さらに、左上肢のおや指を指節間関節より切断した場合
まず、【別表1 併合判定参考表】で個々の障害について該当番号を求めます。
左下肢の障害について
障害の状態
一下肢を足関節以上で欠くもの
併合判定参考表
4号-6
眼の障害について
障害の状態
視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの
併合判定参考表
6号-1
右手の障害について
障害の状態
ひとさし指を併せ一上肢の3指を近位指節間関節以上で欠くもの
併合判定参考表
7号-4
左手の障害について
障害の状態
一上肢のおや指を指節間関節以上で欠くもの
併合判定参考表
9号-8
次に、【別表2 併合(加重)認定表】により、「4位(最下位)の障害9号」と「3位(その直近位)の障害7号」との「併合番号7号」を求めます。
さらに、同表により、「併合番号7号」と「2位(残りのうちの最下位)の障害6号」との「併合番号4号」を求めます。
最後に、同表により、「併合番号4号」と「1位の障害4号」との「併合番号1号」を求め、1級と認定されます。
併合認定の特例
併合(加重)認定の対象となる障害の程度が、国年令別表、厚年令別表第1、厚年令別表第2に明示されている場合または併合判定参考表に明示されている場合は、併合(加重)認定の結果にかかわらず、同令別表等により認定されます。
文章だけ読むとわかりずらいので、具体例を確認してみます。
具体例
例)左下肢の5趾を失った後、さらに右下肢の5趾を失った場合
まず、【別表1 併合判定参考表】によれば、個々の障害の該当番号は次のとおりです。
左下肢の障害について
障害の状態
一下肢の5趾を中足趾節関節以上で欠くもの
併合判定参考表
8号-11
右下肢の障害について
障害の状態
一下肢の5趾を中足趾節関節以上で欠くもの
併合判定参考表
8号-11
次に、これを【別表2 併合(加重)認定表】により併合すると、併合番号7 号となり、障害等級は3級となります。
しかし、この場合、併合認定の結果にかかわらず2級と認定されます。
なぜなら、国年令別表の2級11号に「両下肢の全ての指を欠くもの」と明示されているからです。
つまり、併合結果よりも「明示」が優先されるこの認定方法が「特例」というわけです。
併合認定の制限
同一部位に複数の障害が併存する場合、併合認定の結果が国年令別表、厚年令別表第1又は厚年令別表第2に明示されているものとの均衡を失する場合には、明示されている等級を超えることはできません。
これも具体例を確認してみましょう。
具体例
例)左手関節が用を廃し、左肘関節に著しい障害が併存する場合
まず、【別表1 併合判定参考表】によれば、該当する番号は次のとおりです。
左手の障害について
障害の状態
一上肢の3大関節のうち、1関節の用を廃したもの
併合判定参考表
8号-3
左肘の障害について
障害の状態
一上肢の3大関節のうち、1関節に著しい機能障害を残すもの
併合判定参考表
10号-5
次に、これを【別表2 併合(加重)認定表】により併合すると、併合番号7号となり、障害等級は3級となります。
しかし、この場合は、併合認定の結果にかかわらず障害手当金と認定されます。
なぜなら、厚年令別表第1の3級5号に「一上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの」と明示されているからです。
つまり、この例では、「関節の用を廃した」のは左手のみであり、左肘は「著しい機能障害を残す」ものの用を廃するまでには至っていないため、3級には該当しないというわけです。
※上肢の障害で3級となるための障害の程度は、原則として併合判定参考表8号以上の障害が併存している場合であるので、併合判定参考表の8号と9号との障害が併存している場合を除き、併合認定の結果にかかわらず、障害手当金と認定されます。
総合認定
これは、複数の傷病の障害状態を個々に区別して認定できない場合に用いられる認定方法です。
以下の場合、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の【別表1 併合判定参考表】や【別表2 併合(加重)認定表】は用いられず、総合的に認定されます。
総合的に認定される場合
・2つ以上の内科的疾患がある場合
・精神障害が2つ以上ある場合
・傷病は2つ以上であるが、その結果生じている障害が同一部位である場合
差引認定
もともとの障害がある同じ部位に、さらに別の障害が発生した場合、前後の障害を医学的に切り分けることは一般的に困難です。
そのため、後発障害の等級を判断する際、現在の障害の状態から先発障害の程度を差し引いて認定します。
この認定方法を「差引認定」といい、眼の障害、耳の障害、肢体の障害で用いられます。
なお、「初めて2級」に該当する場合は差引認定は行われないとされています。
差引認定の手順は、次のようになります。
差引認定の手順
1)まず、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の【別表1 併合判定参考表】から、「先発障害」、「後発障害」、「現在の障害の状態」が何号に該当するかをそれぞれ求める
2)次に、【別表3 現在の活動能力減退率及び前発障害の活動能力減退率】から、それぞれの活動能力減退率を求める
3)さらに、現在の減退率から先発障害の減退率を差し引き、差引残存率を求める
4)この差引残存率と後発障害の減退率を比較し、数字が大きい方を判定に用いる
5)最後に、大きい方の数字を【別表4 差引結果認定表】に当てはめ、後発障害の等級を判断する
具体例
例)厚生年金保険に加入する前に、右手のおや指の指節間関節及び小指の近位指節間関節より切断していた者が、厚生年金保険に加入後、事故により右手のひとさし指、なか指及びくすり指を近位指節間関節より切断した場合、別表1と別表3によれば、次のとおりです。
現在の障害について
障害の状態
一上肢の5指を近位指節間関節(おや指にあっては指節間関節)以上で欠くもの
併合判定参考表
6号-8
活動能力減退率
67%
前発障害について
障害の状態
一上肢のおや指を指節間関節で欠き、かつ、ひとさし指以外の1指を近位指節間関節以上で欠くもの
併合判定参考表
8号-8
活動能力減退率
18%
後発障害について
障害の状態
ひとさし指を併せ一上肢の3指を近位指節間関節以上で欠くもの
併合判定参考表
7号-4
活動能力減退率
56%
差引認定すると、差引残存率は 67%-18%=49% となります。
しかし、後発障害のみの活動能力減退率が56%であり、差引残存率49%より大であるため、56%を判定に用いることとなります。
結果的に、【別表4 差引結果認定表】の「69%~42%(治ったもの)」に当てはまり、障害等級3級 12 号と認定されます。